要望・提言等
グリーントランスフォーメーション促進による我が国企業の競争力強化に向けた令和6年度税制改正共同要望
1.GX実現に資する設備投資等促進のための税制措置および償却資産に対する固定資産税の廃止
GXの実現には、リスクの高い巨額の設備投資等を伴う生産および業務プロセスの刷新が必須であるが、それに伴うオペレーティングコストが上昇する一方で、事業のグリーン化等の付加価値に見合ったリターンを得られるかは必ずしも明らかとは言えず、このままでは民間企業として、経済性を無視した設備投資はありえないことから、その意思決定を促すためには、いわば呼び水としての税制が重要な役割を果たす。
こうした点を踏まえ、2050年カーボンニュートラルに向けた企業のGX投資を確実に推進するためには、GX分野を中心に、DXや経済安全保障の観点も鑑み、戦略的に重要な物資の国内生産等に対し、投資から生産、販売に至る事業全般に渡る支援を視野に、中長期的な予見可能性を示すことのできる規模・期間で、生産活動に応じた支援を行う税制を措置することが不可欠である。併せて、短期的な損益の状況に関わらず税制のメリットを受けられるよう、税額控除の繰越制度の導入が求められる。
すでに措置されているカーボンニュートラル投資促進税制についても、設備投資促進の観点からは措置期間が短く、とりわけ計画から実行まで長期間にわたる大規模投資については、実行時点での適用が保証されないことから、企業の意思決定上、予見可能性がなく実効性に乏しいと言わざるを得ない。また、対象となる設備が極めて限定されていることに加え、設備投資に係る脱炭素化の要件が厳格であること、措置対象となる投資額の上限が低いこと等から、産業全体の脱炭素化を広範に図るには不十分である。
このため、本税制についても、措置期間を大幅に長期化するとともに、税額控除の繰越制度の導入が求められる。併せて、対象となる設備投資を政府の「GX推進戦略」に沿ったグリーン化に資する製造設備等に対して広く適用できるようにするとともに、炭素生産性の要件を大幅に緩和することに加え、税額控除率や特別償却率のほか投資額上限を引き上げることが必要である。
また、償却資産を課税客体とする固定資産税については、一部の国や地域で限定的にみられるものの、国際的に極めて例外的で、我が国製造業にとって国際的なコスト競争力を損なう要因の一つとなっているだけでなく、GX対応を始め企業の設備投資意欲に逆行するものである。そもそも、償却資産に対する固定資産税は、設備から生み出される所得に課される税との二重課税の問題、設備型産業に税負担が偏重するという課税の公平性の問題や、地方財政に占める社会保障関係の割合が高まる中での受益と負担の関係の問題等、多くの課題を内包していることから、廃止すべきである。少なくとも、GX対応の緊急性・重要性に鑑み、これらに関連し新規に取得した償却資産に係る固定資産税については即時に免税とすべきである。
2.企業の研究開発投資およびイノベーション促進に向けた税制措置の拡充
GX実現のためには、今までとは次元が全く異なる、非連続的で革新的なアイデアや技術が必要である。我が国企業でも、製造プロセスや事業の抜本的な脱炭素化に向け、様々な研究開発が進められているが、グローバルな技術開発競争が激化する中、世界に先駆けて脱炭素化を実現し、国際競争を生き抜くためには、これら研究開発の加速化が急務となっている。このため、企業努力に加え、研究開発促進税制の一層の拡充による後押しがますます重要となっている。
研究開発促進税制については、令和5年度税制改正において、増加インセンティブ強化の観点から税額控除率等の見直しが行われたが、令和6年度改正においても引続き、長期的に行われるGXに関する研究開発をより強力にサポートする観点から、平成27年度税制改正において廃止された税額控除限度超過額に係る繰越制度を復活させるとともに、税額控除率や上限についても国際的に優位な水準に見直す必要がある。特に、GX対応の重要性に鑑みると、少なくとも、広くGXに資する研究開発に対する支援措置を即時かつ長期に渡るものとして拡充すべきである。
また、研究開発活動等において、企業が自前主義から脱却し、スタートアップへの出資を通じたイノベーション推進による事業成長を図るべく、令和5年度末が期限のオープンイノベーション税制も延長すべきである。
併せて、研究開発の成果としてのソフトウェアを含む知的財産の活用が、一層重要となっているなか、無形資産投資における我が国の立地競争力を向上させ、イノベーションを促進するため、国内での研究開発で生み出した知的財産から生じる所得に着目し、これを優遇するべく、各国で導入が進んでいる「イノベーションボックス税制」を我が国でも導入すべきである。
3.国際課税ルールに関する実務負荷を考慮した国内法制の整備等
デジタル経済の広がりに対応すべく、2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組会合」において新しい課税ルールの国際合意がなされたことを受け、日本においても、令和5年度税制改正で、国際最低法人税率(グローバル・ミニマム課税)における所得合算ルールに係る法制化が行われたが、未確定な部分も多く、企業の実務負担の増加が懸念される。また、これと同時に、企業の事務負担の軽減を図る観点等から、海外子会社合算税制(CFC税制)について、一定の見直しが図られたが、十分とは言えない。令和6年度税制改正においても、国際ルールに基づいた措置の法制化が進むことが見込まれるが、引続き、海外子会社合算税制の更なる見直しを含め、我が国企業の実態に照らし、実務負荷等を考慮した国内法制として整備することが必要である。
また、今後とも、国際課税ルールの整備にあたっては、グローバルに活動する企業間の競争条件の均衡化の観点から、国際的な協調体制の下で進めていくことが不可欠であることから、「BEPS包摂的枠組会合」の場等を通じ、不適切な課税や新たな二重課税の発生を回避するべく、効果的なモニタリングや適正な執行が行われるよう、官民を通じて働きかけていく必要がある。