審査を振り返って

審査員からのReal Message

個々の技術はすでに一級品。そこに、苦手だった感性価値の付加と巨大システム統括への進歩が加わった

 第3回「ものづくり日本大賞」の応募時期は、大変な不況期と重なったこと、そして10年以降、環境ビジネスが急伸していく兆しもあり、効率化、省エネ、CO2削減など、問題解決に資する技術案件が多かったように思います。

 サイエンスとして非常に優れた案件も多かったですが、エンジニアリング、マニュファクチャリングの段階を経て、人々の生活をリアルに支える産業としてタイムリーに確立されていく提案なのかどうか。日本代表としてお墨付きを付与し、国内外に発信していくアワードですから、今回の審査会では、その点もかなりシビアに議論されました。

 生産・加工プロセスの改善など、今ある機能をより高め、洗練させていく研究開発は、まさに日本のお家芸です。そして、そこから生まれた一つ一つの製品、生産・加工技術はすでに出色の域にあります。ものづくりに携わる研究者・技術者の不断の努力が、「日本のテクノロジーは安心・安全である」という国家イメージづくりに貢献してきたわけです。

 では、この根幹を守りつつ、日本の "monodzukuri企業" は次に何を目指すべきなのか。方向性は3つ考えられます。①機能を超えて世の中に発信力を持つプラスαの”感性“を追求すること②圧倒的な技術力で生命の安全を約束すること③個々の製品単位の品質管理を超えた、巨大プロジェクトのシステム統括力を強化していくことです。

 今回は、これらの方向性および領域に着手した受賞企業もありました。独自のカッティング技術で新たな高級品市場を創出した企業。人類未到の手術領域を開拓した医療機器を開発した受賞企業2社の連携。そして、砂漠地帯での巨大プラント建設は、すでに世界のエネルギー地図を塗り替えるインパクトをもたらしています。

 日本はカリフォルニア州より小さな国土面積に、アメリカの全産業の半分以上が集積している、ある意味異常ともいえる産業集積国です。私は取材で地方企業に出向くことも多いのですが、山奥にある中小企業に、世界的企業の幹部が足を運んでいることにしばしば驚かされます。この事実を私たち自身がもっと認識すべきなのです。

 本賞に触発されて、昨今、地元の "monodzukuri企業" の表彰制度を産官学・金融機関・メディアが連携して創設する地方都市が出てきたことはとても喜ばしいことです。そして、多くの方々の努力により、そんな企業を発掘し、世界に発信していく本賞の存在意義は非常に重いと思っています。