審査を振り返って

審査員からのReal Message

競争と共存を両立させた世界的にも希有な風土。製造業に息づく伝統が、日本独自のものづくりを生み出している

 今回も、受賞された37案件すべての現場を訪問させていただき、改めて「この人たちは本当にものをつくるのが好きなんだなあ」と実感した次第です。同時にそこから、他の工業先進国では重視されなくなった素形材分野などのものづくりにおける広い裾野と、最先端分野における高い頂を持つ、まさに富士山のような日本の「ものづくり」の本質を見た思いがしました。その根底には、「ナンバーワン」より「オンリーワン」たることを尊んできた、日本のものづくりの伝統的な精神があるかと思います。トップが利益を総取りする、欧米先進工業国のナンバーワン志向とは対照的なその精神は、どこから生まれたのでしょうか。

 実はナンバーワンになるには、必ずしも品質や性能がトップである必要はありません。ライバルを力で蹴落とし、消費者にほかの選択肢を与えなければいいのです。しかし江戸の昔から、日本の職人、すなわち製造業者は違いました。彼らは己の技をより磨き上げ、独自のアイデアを盛り込んだ製品をつくることで、ライバルとの差別化を図る道を選んだのです。その結果、同じ分野に質の高い製品がいくつも生まれ、それぞれに「ひいき」の客が付きました。その顧客の厳しい要求に応え、職人たちはますます腕を磨く。一方で、顧客の信頼を得られない職人は淘汰されていきました。こうして日本は、世界でも希有な「競争共存型」の製造業と市場を生み出していったのです。

 しかし、グローバル経済が幅を利かせる現代、この手法は世界に通用しないのでしょうか。とんでもない。たとえば世界トップシェアを誇るノキアの携帯電話や就航間近のボーイング787、液晶テレビなど、世界でつくられている多くの工業製品には、日本製の部品や素材、半製品化されたものが使われているのです。欧米先進工業国には理解不能な日本的こだわりが、どのような分野や製品にも誠実に対応し、その実績が信頼となり、世界のデファクトスタンダードとなっているのです。

 目先の利益より顧客からの信頼を第一とする精神は、今回受賞された皆さんにも脈々と受け継がれ、息づいています。この国では、「ものづくり」が人生観や人格形成にかかわる「ひとづくり」でもあるのです。この伝統を次の世代へと伝えていく努力を、私たちは惜しんではなりません。子どもたちが「あの車はうちのお父さんがつくったんだよ!」と自慢することは、ものづくりに携わる人々にとって、何ものにも替え難い励みになるのですから。