受賞者紹介

レーザー技術を応用した、超精密「象嵌」創成技術の開発

埼玉県春日部市
ナガシマ工芸(株)
その他受賞メンバー
近藤裕二、長島州治、渡辺忍
推 薦 者
(財)埼玉県中小企業振興公社
顔写真

長島洋一  (62)
代表取締役

高級家具の仕上げと同じ仕事をする。ものづくりに手を抜かないから
summary

ひとつの素材に、別の素材をはめ込んでデザインする「 象嵌(ぞうがん)細工」 は、ヨーロッパや日本の工芸文化のひとつ。古典的な象嵌細工は、象嵌師が一つ一つ手作業で仕上げる。同社は、レーザーによる彫刻加工技術と薄膜形成技術を組み合わせて、その量産を可能にした。本物と遜色のない外見で、コストは象嵌細工の1 ~2割。樹脂などの表面に金属文字(ロゴマーク)を埋め込んだり、基材を透明にして独特の照明パネルにするといった、新たな用途を開拓した。自動車内装用パネルのほか、様々な分野への応用が見込まれている。なお、同技術は、日本のほか、米国、中国、ドイツ、韓国で特許出願されている。

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中国と競り合いになったら先はない。その危機感をモチベーションに、象嵌に進出

 象嵌。これを「ぞうがん」と読める人は、どれくらいいるだろう。ある素材、たとえば木の表面を削ったり、くり抜いたりした部分に、別の模様や色の材料をはめ込む伝統工芸である。ヨーロッパのほか、日本でも高級家具向けなどに名人が腕を振るっている。だが、当然のことながら大量生産はできず、製品は高価。
 自動車内装の樹脂製木目パネル印刷を主力とする同社が、この象嵌細工模様の印刷技術を開発しようと取り組みを開始したのは、04年のことだった。
 「水圧を利用して、どんな曲面にも美しいグラビア印刷ができる3次曲面転写システムがウチのコア技術。ところが、特許切れが迫っていた。そうなれば、中国企業などが一斉に参入してきて、価格競争を強いられるのは火を見るより明らかでした」
 「何か付加価値を付ける手立てはないものか」と悩む長島さんのもとに、ある自動車メーカーから提案が舞い込む。ヨーロッパの高級車には時々使われる象嵌を、印刷で再現できないかというのである。
 ほどなく、それはできた。基材の、象嵌を施す部分をマスキングして、全体を印刷。次にマスクを取り除いて、その部分に別の色や模様を印刷するというやり方だ。でき上がったものは、なるほど「象嵌らしかった」。完成した製品を「擬似象嵌」と命名するが、長島さんは不満だった。
 「上からシールを張り付けたように、どうにも安っぽい感じ。これじゃあ売れるものにはならないな、というのが本音でした」

取り返しのつかない失敗。それが、世界の大企業から注目される技術に結実

 ものづくりの転機は、どんなかたちで訪れるかわからない。マスキングに使われるのは0・01〜0・02mmのフィルム。最初の印刷を終え、象嵌部分に被せられたそれを切り取るのにはレーザーを使う。基材に傷を付けぬよう、慎重に……。しかしある時"事故"は起こった。技術者が誤って「基材まで、思いっきり切り込みを入れてしまった」のだ。顧客から預かった試作品は、それひとつだけ。
 ところが、である。傷付いたまま、とにかく完成させてみると、本物と見まがうばかりの出来映えになっているではないか。実は象嵌は、周囲の素材と、はめ込む部材の間にわずかな隙間がある。その部分から下の基材がのぞき、えも言われぬ立体感をかもし出すのである。基材まで切り込みが入ったことで、結果的にその質感に限りなく近づいた。ちなみに、擬似象嵌にも隙間が印刷されてはいた。両者の見映えに格段の差が出たのは、肉眼が「表面処理」と実際の彫刻とを、しっかり見分けたからだった。
 ひょんなことから壁を打ち破った技術を、今度は「レーザーゾーガン」と名付けて商標登録した。象嵌細工の1、2割程度のコストで本物そっくりの製品が量産できるだけでなく、基材を透明にすれば、象嵌模様を縁取る線を透かしに見立てた照明パネルなどにも応用できる。さらには、木目のパネルに、金属などを象嵌する技術も開発。企業や商品のロゴを入れて、高級感を演出するのに最適だ。
 国内のほか米国、中国など5カ国に特許出願した同社は、すでに世界に知られる存在だ。住宅街にたたずむ本社工場には「今は名を明かせない」大企業の担当者が、何人も海を越えてやって来た。その技術に、高い関心を抱いたからにほかならない。
 「自動車内装関連以外にも、今までになかったデザイン性を求める分野は世界中に数限りなくあるはず」だと、長島さんは話す。
 ところで、同社の工場に足を踏み入れると、そこだけ7、8人が固まって作業をしている一角がある。サンディング、すなわち塗装された製品にサンドペーパーをかける工程である。「磨く」のではない。せっかくコーティングした表面を「傷付け」、曇らせているのだ。なぜそんなことを?
 「1回コートすればツヤが出ます。でも、もう1回塗れば、さらに深い光沢になります。より厚くコーティングできるように、わざわざ表面をザラザラにするわけ。素材はプラスチックですが、高級家具と変わらない仕上げをしています。これに象嵌を施すから、"本物"になるのですよ」
 愚直なまでにていねいな手仕事がなければ、世界オンリーワンの技術も輝くことはなかった。

ナガシマ工芸(株)

http://www.nagashimakougei.com/

設立
1972年2月
資本金
1000万円
従業員数
40名(2009年12月現在)
ワンポイント
3次曲面転写システムによる自動車内装品を生産。05年にレーザー彫刻機を導入、これと組み合わせた象嵌技術を開発

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樹脂の基材に金属を、貝殻に象嵌を施した時計の文字盤……多種多様な加工ができる

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高級家具同様に"磨いて"仕上げる。だから象嵌も生きる