受賞者紹介

高強度で鉛フリー、クラッキングコンロッド用非調質鋼の開発

北九州市小倉北区
(株)住友金属小倉
その他受賞メンバー
●(株)住友金属小倉/古賀道和、佐藤武史、松本斉
●住友金属工業(株)/佐野直幸、渡里宏二
●(株)本田技術研究所/浅井鉄也、飯田善次、木暮亮介、高田健太郎
推 薦 者
(社)日本鉄鋼連盟
顔写真

長谷川達也  (40)
商品開発部 商品開発第一室 担当課長

簡単に割れて削りやすく、疲労強度が強い。禅問答のように相反するこの要求に実験の繰り返しで応えた
summary

自動車エンジン用のコンロッドとは、エンジン内部でピストンの上下運動を回転運動に変えるための部品で、クランクシャフトと連結するため、従来はロッドとキャップを別々に製造して組み付けるのが常識だった。しかし、住友金属小倉では欧州で普及している「クラッキングコンロッド」という製法に着目。これはロッドとキャップが一体化した状態でコンロッドを製造し、その後にたたき割って2つの部品に分ける製法だが、欧州製品は日本の自動車メーカーが求める高い性能水準を満たしていなかった。そこで、同社は住友金属とホンダとの共同開発により、割れやすいのに金属疲労強度が高く、削りやすいという相反する性質を持つ鋼材を開発した。

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たたき割って2つの部品に分け、もう一度接合させる製法

 自動車のエンジン内部には、ピストンの上下運動をクランクシャフトの回転運動に変えるため、コンロッドという部品が使われている。自転車にたとえれば、"人間の足"に相当する部品だ。
 従来、コンロッドの製造では、クランクを挟んでボルトで連結するため、ロッド部分とキャップ部分を別々に製造する方式が取られていた。それが80年代から90年代にかけ、欧州メーカーが「クラッキングコンロッド」という製法を実用化。これは、ロッドとキャップが一体化した状態でコンロッドを製造し、たたき割って(クラッキング)ロッドとキャップに分割する製法だ。
 鋼材に関して知識のある人間にとっては、衝撃を覚えるような製法だが、製造プロセスが大幅に減るうえ、割った部分を再び接合するので、接合面の凹凸がピタリと一致し、高い強度を得られるのだ。
 「しかし、一般的な鋼材には粘り強さがあるので、簡単に割れるものではありません。欧州メーカーが開発した製品は、鋼材に多量の炭素を混ぜて硬くしただけ。確かに硬ければ硬いほど割れやすいのですが、その一方で非常に削りにくく、金属疲労強度も低い。日本の自動車メーカーの要求に応えられる製品ではありませんでした」
 とはいえ、クラッキングコンロッド自体には可能性があるのではないか。そう判断した同社は、90年代後半に素材の開発に着手。同社にとってコンロッドとクランク用鋼材は主力商品で、次代を担う本命製品と位置付けられた。そして、長谷川さんは00年から開発の指揮を執ることになった。
 「私が担当した頃には、数年来の研究で、本来なら割れない鋼材がたまに割れるようになった段階でした。ですから、正確にキレイに割れる条件を探すことと、そのメカニズムを解明すること、さらに安定的に製造する方法を探すことが私に与えられた課題でした」

日本の自動車メーカーが要求する高い性能を実現

 コンロッドには、ピストンの上下運動で、1分間に数千回という単位で押しと引きの力が加わる。そのため金属疲労が起き、最後は非常に低い力でも折れるようになってしまう。だから、求められる性能とは、簡単に割れるが、しかし金属疲労には強く、しかも締結ボルトを通す穴などを開けるために削りやすい素材でなければならない。まるで禅問答のような矛盾する要求をいかにして実現するかだ。
 「住友金属の共同研究者が、鋼材にチタンを混ぜるとある条件では割れやすくなることを研究で明らかにしました。一方、鋼材にバナジウムを多量に混ぜると疲労強度が上がることもわかっていました。しかし、チタンやバナジウムを入れすぎると硬くなって削るのが難しくなるし、非常に高価な素材なので最小限に抑えたいわけです」
 両者の配合を変えながら、その都度、破断試験を試みて破断面や疲労強度などを検証する。地道な繰り返しである。
 コンロッドをたたき割る実験のやり方は次のようになる。クランクシャフトを通す穴の部分に、円柱を半分に割った形状の部材を入れ、真ん中に楔(くさび)形の部材を差して真上からおもりを自由落下させて強制的に穴を広げて割る。
 「2カ所が同時に割れるのではなく、実は片側が割れた後に、もう片側が割れる。最初に割れたほうは破断面がキレイなんですが、2回目の割れでは鋼材が粘って引きちぎれるような感じになるので、それをどう克服するかがポイントでした」
 数百回におよぶ破断試験の果てに、ついに最適解を見つけ出した。その成果をもとに、共同開発のメンバーであるホンダでは、量産に適用させるため、さらに多くの破断試験を行って技術を完成に導いた。
 「従来製品を13%軽量化し、30%の疲労強度アップを達成しました。エンジンの内部、特にパワーを伝える部品の軽量化は燃費の改善、すなわちCO2の排出削減につながるのです」
 同時に薄肉化により、エンジンそのものの小型化にも貢献したのである。
 04年に発表されたホンダのレジェンドを皮切りに、クラッキングコンロッドはすでにホンダ車250万台以上に搭載。昨年大ヒットしたハイブリッド車のインサイトにも採用され、燃費向上に貢献しているのだ。

(株)住友金属小倉

http://www.kokura.sumitomometals.co.jp/

設立
2000年4月
資本金
270億円
従業員数
1226名(2009年3月現在)
ワンポイント
高炉からの一貫製造プロセスで高機能を有する特殊鋼を製造する専業メーカー。「安心品質の小倉」のブランド獲得を目指す

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同社は北九州の高炉メーカー。鉄鉱石から高品質な鋼材を製造し、自動車メーカーを中心に販売している

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円柱を半分に割ったような部材をコンロッドの穴に置き、楔形の部材を差し、上からおもりを落としてコンロッドを割る

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1本の部品を2つに割り、クランクシャフトを挟んで再び接合させ、ボルトで締結する。製造プロセスが減り、強度も大幅に上がった

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棒状の「条鋼」が同社の主力商品で、プレス加工などにより自動車の部品が製造される