受賞者紹介

欠陥制御育成法による高機能光学単結晶および同結晶を用いた光学素子の製品化

山梨県北杜市
(株)オキサイド
その他受賞メンバー
●(株)オキサイド/伊藤猛、羽生真之、松倉誠、松村禎夫、宮本晃男
●(株)SWING/北村健二、竹川俊二、中村優、畑野秀樹
推 薦 者
(独)物質・材料研究機構 理事長・岸輝雄(申請時)
顔写真

古川保典  (50)
代表取締役社長

画期的な研究成果は、世に送り出して市場を創設するのが研究者の使命
summary

世界最高レベルの「高精度重量検出システム」「高精密自動直径制御システム」「原料粉末精密供給システム」を備えた結晶製造装置を開発。これにより、物質・材料研究機構で研究開発された高性能光学素子の材料となる「SLT (定比タンタル酸リチウム単結晶)」と「SLN (定比ニオブ酸リチウム単結晶)」の製品化に成功した。さらに、これらの結晶をベースに「高歩留まり分極反転技術」も確立。共同開発企業であるSWING は、製品化されたSLT、SLN単結晶を用いて、世界トップレベルの大型波長変換素子を開発している。

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研究室で生まれた成果が世の中に出ていかない。だから、自ら起業した

 21世紀は、オプトエレクトロニクス(光電子工学)の時代だといわれる。ブルーレイディスクや光通信などは光学技術と電子技術が融合した製品で、光学技術の進展により、今後さらなる発展が期待されている。オキサイドは、その礎となる高性能な光学素子の素材を開発するベンチャーである。代表の古川さんは、00年までNIMS(物質・材料研究機構)で、高性能な光学素子の材料となる酸化物単結晶の研究開発に従事していた。
 単結晶とは原子配列が同じ方向に整然と並んだ結晶で、配列が不規則な結晶は多結晶と呼ぶ。前者には様々な機能を有するものが多く、たとえばシリコン単結晶は「半導体産業のコメ」といわれている。
 古川さんが研究していたのは、携帯電話のノイズ除去フィルターなどに利用されているLT(タンタル酸リチウム単結晶)と、LN(ニオブ酸リチウム単結晶)を光学応用へ展開するための高品質化である。
 「携帯電話などの電子デバイスでは、電気で伸び縮みする圧電効果を利用するだけなので、それほど品質が問われませんが、LTやLNを光学的な波長変換素子に利用する場合、光は材料の欠陥に敏感なので非常に高い品質が求められるのです」
 高品質な単結晶をつくろうとしても、従来の製造法では部分的に原子配列が乱れてしまう。長年の研究努力により、古川さんが所属していた研究グループでは、きわめて高品質なSLT(スーパーLT)、SLN(スーパーLN)の単結晶を製造する結晶育成技術の開発に成功した。
 これらSLTとSLNは、レーザーテレビやレーザープロジェクター、高速・大容量光通信などを実現する光学素子への応用が期待されている。自然界にある色は、赤・青・緑という光の三原色の組み合わせで再現でき、そのうち赤と青の発光ダイオードや半導体レーザーは実用化されたが、緑は開発困難といわれる。しかし、SLTやSLNを使った波長変換素子を使えば、波長1064nm(ナノメートル)の赤外線を波長532nmの緑色光に変換できるのだ。非常に大きな可能性を秘めた素材で、開発された製造技術を5社の民間企業が希望し、ライセンスされた。ところが、2年たっても製品化される気配がなかったという。
 「それなら自分で起業してしまおうと。画期的な研究成果であればあるほど、世の中に送り出し、市場創出につなげていくのが研究者の使命と考えたのです」
 00年10月に同社を設立し、SLT、SLNの製品化に取り組んだのである。

研究室で「世界最高レベル」でも製品が一定品質でなければ、誰も買ってくれない

 しかし、研究室で開発した製造法は、そのままでは実際の製造で使えなかった。
 「製造した結晶に割れがあっても、研究室レベルでは使えるところだけを切り取って、『世界最高レベルの素材ができた』と発表できる。しかし、ビジネスとなれば、少しでも割れがあれば誰も買ってくれません」
 単結晶の製造法には様々あるが、同社が開発しているのは融液からの回転引き上げ法(CZ法)である。るつぼにリチウムやタンタルなどの材料を入れて1300~1700度に熱して溶かし、小さな角棒状の単結晶をタネにして融液に挿し、微速で回転させながら引き上げていく製造法だ。
 しかし、SLTとSLNの場合、融液と結晶の組成が異なるため、結晶が成長するにつれ融液の組成が変化してしまう。この問題を解決するには、融液の組成を常に一定に保つ必要がある。そこで、るつぼから結晶を引き上げる時に、引き上げた結晶の重量を随時計測し、それと同じ組成、分量の原料をるつぼに供給するシステムを開発。01年5月、製品化に成功した。
 NIMSで開発した製造法では歩留まり率が10%で、製品の9割を捨てなければならなかったが、このシステムにより、歩留まり率は98%にまで向上したのである。
 「私は何もしていない(笑)。現場の研究員のセンスと努力のたまものです」
 現在、同社では製造できる単結晶やその育成法の幅を広げ、研究者を16人にまで増員して新素材の開発に挑戦している。
 「この会社を、日本における光学単結晶の技術と、それを担う技術者の集積地にする」のが古川さんの夢である。

(株)オキサイド

http://www.opt-oxide.com/

設立
2000年10月
資本金
3億7300万円
従業員数
38名(2009年12月現在)
ワンポイント
物質・材料研究機構の高機能光学材料に関する研究成果を実用化するために誕生したベンチャー企業

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イメージ1
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人間の裸眼では見えない赤外線(波長1064nm)が、波長変換素子を通すことで波長が2分の1の緑色光(波長532nm )に変換される

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これがSLT の単結晶。上部に付いているのが単結晶のタネとなる角棒で、融液に挿し、回転させながら引き上げて単結晶を育成する。製品は薄くスライスされて光学素子の材料となる

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るつぼの中に、単結晶の原料となるリチウムやタンタル、ニオブなどを入れ、1300~1700度に熱して溶かす