受賞者紹介

味が見える「味覚センサー」の開発・実用化と

神奈川県厚木市
(株)インテリジェントセンサーテクノロジー
その他受賞メンバー
小林義和、陳栄剛、内藤悦伸
推 薦 者
(財)神奈川産業振興センター
顔写真

池崎秀和  (51)
代表取締役社長

人間の舌に、とことん近づける。その発想が「味は測れない」という常識を覆した
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視覚や聴覚と異なり、味覚は測定不可能とされてきた。正確に言えば、食品や飲料に含まれる物質の化学分析は行われているが、それを味に置き換えることはできなかった。味や香りを"利き分ける"プロによる官能試験においても、複数の評価が合致するのはまれな、あいまいな世界なのである。池崎氏は、アンリツの研究所に在籍していた89年、人の舌を模倣した味覚センサーの研究を行っていた九州大学との共同研究に着手。02年、アンリツからその事業を買い取り、同社を設立した。07年に、味認識装置「TS-5000Z」を発売。食品メーカーや医薬品メーカーなどに、すでに200台超が導入されており、「客観的な味」にもとづく製品開発や品質管理において活躍している。

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味だけでなく「コク」や「キレ」まで数値化した驚きの技術

 グルメ番組で、やたら「おいしい!」を連発するレポーターに辟易した覚えはないだろうか。だが実際のところ、客観的な味を伝えるのは簡単な話ではない。
 五感のうち、視覚は光、聴覚は音波、触覚は圧力や温度などが関与する。これらは、波長の長さや手に乗っているものの重さというかたちで、物理的に計測可能である。対して味覚と嗅覚には、多種多様な化学物質がかかわり、「測る」のは無理だとされてきた。なにせ、1杯のお茶には約500種類もの味物質が含まれているだけでなく、苦味で甘味が感じにくくなるといった相互作用まで働くのだから。
 「当社の味認識装置は、世界で初めて"人が感じる味"を数値化することに成功しました。開発の秘訣は、徹底的に舌を真似たことにあります」
 舌の表面を覆う脂質二分子膜という膜に味物質が吸着すると、膜電位が変化し、その情報(電気信号)が脳に伝達される――。これが、味を感じるメカニズム。味によって電位差があり、それで「甘い」とか「辛い」とかを識別しているのだ。
 「装置には、酸味・塩味・苦味・甘味・うま味という、それぞれ別の基本味を認識する味覚センサーが取り付けられています。ポイントは、その先端に装着された舌を模した人工の脂質膜。これに味物質が吸着すると、本物と同じように膜電位の変化が起こる。その出力をコンピュータで解析し、味の濃淡やバランスを計測するわけです」
 さらにこの装置は、コクやキレといった、何ともあいまいな感覚も測れる。実は我々は、味を感じた瞬間(先味)から後味が残っている時間が長いほど「コク」を認識し、逆だと「キレがいい」と評価している。膜電位の時間変化を測定すれば、これも数値化できるのである。本物の舌を模したからこそ、得られた成果だ。
 この装置の実用化で、たとえば縦軸にコク・横軸にうま味の指数を取って、複数のメーカーの製品をマッピングすることが可能になった。すでに、そうした比較表をパッケージに印刷した削り節などの商品が発売されている。地方による味覚の違いに合わせた商品開発などにも応用が始まった。

ものさしの出現で広がる豊かな食の可能性。目指すは「味の世界地図」

 池崎さんが、舌を模倣した味覚センサーを提唱した九州大学の都甲教授と共同研究を始めたのは、アンリツの研究所にいた89年のこと。当初は「正直、ここまで来られるとは思わなかった」そうだ。
 「人工のベロをつくればいいという原理・原則はわかっていても、具体的にどう設計すればいいのか、皆目見当が付きませんでした。できたセンサーは不安定で、問題を洗い出したらざっと300項目。しかも、半年かけてすべてクリアしたはずなのに、うまくいかない。周りからは『いい加減にしろ』という声も聞こえてきました」
 問題は技術面に限らなかった。池崎さんの手元には、「経営会議で何が行われているのかわからない」「役員が時間や期日を守らない」といった、数々の辛らつな批判が赤字で印刷された文書が残されている。05年のある日、社長宅で行われた中間リーダー層との打ち合わせ、というより"突き上げ"を記録したものだ。ただし、発言の傍らには「宝」の文字が、やはり赤い字で記されている。
 「6時間くらい針のむしろ(笑)。でも、社員の言うことはいちいちもっともでした。開発にばかり目がいって、結果的に経営が疎かになっていた。大切なのは、やっぱり人です。それに気づかせてくれたあの時があったからこそ、今がある。だから"宝"なんです」
 画期的味覚センサーを搭載した味認識装置は、すでに欧州やアジアなど海外にも普及し始めている。
 「この装置を、世界共通の"味のものさし"にしたい。そうなれば、多様な食文化の発展に寄与できるだけでなく、民族による味覚の違いを客観的に示す『味の世界地図』ができる。人類の味のルーツを探るといった研究にも、役立つかもしれません」
 人にとって欠かせない、食し、味わうという行為。日本発のメカが、その領域に新たなページを開こうとしている。

(株)インテリジェントセンサーテクノロジー

http://www.insent.co.jp/

設立
2002年1月
資本金
9500万円
従業員数
33名(2009年12月現在)
ワンポイント
味認識装置に特化。安価で手軽なハンディタイプの市場投入も視野に入れる。新興国を含めた海外展開にも力を入れていく

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センサーの先端部分。ここに、人間の舌を模した脂質膜が張り付けられている

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味認識装置「TS-5000Z」。右下に突き出たセンサーの一本一本が、「塩味」や「うま味」などを個々に感知。それを解析して総合的な味を評価する

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「甘辛い」「うま味が濃い」といった味の特徴が画像で表示される