受賞者紹介

組織細胞を生かし長期保存を実現した革新的なCAS凍結技術の開発

千葉県流山市
(株)アビー
その他受賞メンバー
大和田義子、栗田學、齊藤尚武、藤井和博
推 薦 者
千葉県商工労働部産業振興課
顔写真

大和田哲男  (65)
代表取締役社長

「磁気なんて怪しげなもの」と、山師扱いもされた。しかし大切なのは
理屈ではない。結果を出すことだ
summary

100年近い歴史を持つ急速凍結技術だが、素材の細胞の破壊や乾燥、酸化など程度の差こそあれ品質の低下は避けられなかった。CAS(Cells Alive System)はパルス磁場と低周波、数種の微弱エネルギーによって、対象となる素材の周囲に特殊な磁気環境を生成する技術。これを凍結装置と組み合わせることで、素材内の水分子を過冷却状態から一気に凍結、細胞の損傷を最小限に抑える。00年に実用化が始まり、食品分野、医療分野(臓器、神経、血液、歯などの保存)に大きな発展をもたらした。ちなみにCAS自体は冷凍技術ではない。開発者の大和田氏は将来的に農業、畜産、酪農、漁業の生産現場にCASを導入することで、農作物や家畜の品質向上も視野に入れている。

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解凍しても限りなく生に近く。単なる冷凍保存ではない新しい鮮度保持技術を

 「大和田さん。私たちは冷凍だから使わないのではない。組織が壊れた食材を、お客さまに出すわけにいかないと言っているのです。組織が壊れていなければ生と変わりません。この技術を育てなさいよ」
 ある有名ホテルの総料理長に言われた一言が、大和田さんにCAS(Cells Alive System=細胞が生きている)技術の開発を決意させた。さかのぼること数年前。アビーを設立した大和田さんは、当時不可能といわれていた生クリームの急速凍結装置の開発に成功する。磁場を利用したその「誘電凍結機」は、たちまち洋菓子業界全体に広まっていった。
 「この調子なら洋菓子の冷凍保存技術で会社も食っていけるだろう。そう思いました」
 そんな大和田さんのもとに、なぜかフランスの国立料理学校の先生から文句が来た。
 「『オゥワダ、お前の凍結機は料理用の食材には使えない。何とかしろ』って言うんです。そもそもお菓子用なのだから、とんだ言いがかりです。だけど洋菓子の世界でフランスに逆らっては生きていけません(笑)」
 渋々、料理用の凍結装置の開発を始めた。食材の研究のため、日本の有名ホテルやレストランの料理長を訪ねて回った。ところがどこも「冷凍……」と言ったとたん、門前払い。「うちは生しか使わない」。仕方なく料理の知識もないまま開発を始めた頃、試作機で凍結・解凍した肉を一流シェフに食べてもらう機会を得た。彼は言った。「これは生だ!」。そして本文冒頭の言葉が続いた。
 「そもそもなぜ冷凍で組織が壊れるかというと、食材が外から中へと凍っていく間に水分が大きな氷の結晶となって、細胞膜や細胞壁を壊してしまうからです。さらに結晶の隙間に内部の水分が吸い上げられ、乾燥や酸化を呼んでしまうんですよ」
 解決のヒントとなったのが、水の「過冷却」なる現象。過冷却とは水が0度以下でも凍らない状態のこと。水の分子同士が絶妙な静的バランスでくっつかず、結晶化しないのだ。だが、そこに少しでも衝撃が加わると、分子がくっついて一気に凍結する。ならば、逆に水の分子を微弱なエネルギーで細かく振動させ続けておけば、極低温でも液体の状態を保てるのではないか? さらに温度を下げ適度な衝撃を与えれば、瞬間的にごく小さな結晶で凍結するかもしれない。

臓器はまさに「生きたまま」。CASが伸ばした医療現場のタイムリミット

 開発に精を出す大和田さんに、またまた思いも寄らないところから依頼が来た。
 「今度は医学の先生からでした。移植用の臓器や血液の保存、組織再生医療に私の凍結技術が使えんかと言う。開発費も出してあげよう、どうせ貧乏だろうからと(笑)」
 大和田さんはパルス磁場と低周波磁場などを組み合わせた試作機を、医師たちに貸し出した。返品自由、ただし1カ所でも以前より良くなった点を報告してほしいという条件付きで。医療と食品の2つの世界で、改良と実験が繰り返された。そこから信頼に足る経験値が導き出され、ついに「細胞を生きたまま」凍結あるいは冷蔵、そして保存できる装置が完成したのである。
 「食品用は約10年前、臓器用は5年前に実用化されました。嬉しかったのは築地で生のマグロが1kg4000円の時に、CASのマグロに1万5000円の値が付いたこと。そしてCASで過冷却冷蔵した臓器が移植に成功した時。心臓の場合、従来は摘出後10時間から14時間が移植可能な限界でした。それがCAS冷蔵ならマイナス30度から40度で10日間保存できる。先生方への責任が果たせて、肩の荷が下りました」
 だが、大和田さんの前に偏見むき出しで立ちふさがったのも、日本の学者たちだった。
 「よく『あんたの技術には理論もなければ学会での論文発表もない。ニセモノだ』と言われました。実際、私は常に山カンの結果オーライなので理屈なんてわからない。それでずいぶん山師扱いもされました(笑)」
 CAS技術は海外にも紹介された。たちまち多くの国が関心を示し、今では世界22カ国で研究が進められている。中にはアビー本社の誘致を提案してくる国もあるそうだ。新しいものはいつも無から生まれる。理論は後から付いてくる。ある外国の学者は大和田さんにそう言った。だが日本でも今、CAS技術を理論化すべく東京大学と千葉大学の共同研究が始まっている。大和田さんの「山カン」の正しさを、「科学」が証明してくれる日もそう遠くはないだろう。

(株)アビー

http://www.abi-net.co.jp/

設立
1989年2月
資本金
2000万円
従業員数
40名(2009年12月現在)
ワンポイント
急速凍結とCASを組み合わせた画期的な食品凍結・保存技術を開発。医療分野にも応用され、移植・再生医療に貢献している

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CAS凍結された豆腐。解凍しても高野豆腐にはならず、プルプルの絹ごし豆腐に戻るという

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CAS機能を組み込んだ急速凍結装置。内部の状態は常時監視できるようになっている

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青々としたししとう、捕れたてと見まがうタラバガニ。生鮮食品は1年後に旬のものと食べ比べ、官能評価する

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高級料亭の料理もCASでお持ち帰り可能に