受賞者紹介

有害化学物質を削減する革新的塗装プロセスの開発

宮城県加美町
加美電子工業(株)
その他受賞メンバー
●加美電子工業(株)/早坂宜晃、雪下勝三
●(独)産業技術総合研究所/相澤崇史、小野實信、川﨑慎一朗、鈴木明
●宮城県産業技術総合センター/佐藤勲征、千代窪毅、中塚朝夫
推 薦 者
(独)産業技術総合研究所 コンパクト化学プロセス研究センター
顔写真

早坂 裕  (60)
代表取締役社長

宮城の稲作地帯のど真ん中から、環境負荷を低減する塗装技術を世界に発信していきたい
summary

カメラや携帯電話のボディー、自動車のインパネ周りの樹脂製部品などの塗装・表面処理加工メーカー。05年、塗料の希釈溶剤であるVOC(揮発性有機化合物)を、超臨界CO2 に代替する基礎研究を産官共同で開始。07、08年の2年間は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の基盤技術開発プロジェクトとして、実用化に向けた開発を行ってきた。現在、実用機が試験運用を始めているほか、CO2専用塗料の開発も進んでいる。この塗装システムはVOCの使用量を従来の3分の1に低減。また塗装プロセス全体の効率化により、CO2 排出量削減にも貢献する。今年中には実用化の予定で、自動車産業や家電、家具業界などからも大きな関心と期待が寄せられている。

summary

超臨界CO2の利用でスプレー塗装の必需品、希釈用有機溶剤を全廃

 大気汚染防止法のVOC(揮発性有機化合物)排出規制が、06年度から実施されている。該当する企業は、対00年度比でVOCを30%削減しなければならない。
 「当社のような塗装の会社にとって、VOCは削減したい。けれども、塗料の希釈に使う、トルエンやキシレンといった有機溶剤の代替品なんて、簡単には見つからない。ところがあるきっかけで、その候補としてCO2、二酸化炭素が浮上してきたんです」
 03年当時、同社は産総研(産業技術総合研究所)の「超臨界流体インキュベーションコンソーシアム」に参加していた。超臨界流体とは、物質がある一定の圧力と温度下で、気体と液体両方の特性を持つ特殊な状態のこと。CO2は7.38MPa(メガパスカル)・31.1度で超臨界流体となり、気体や液体の時にはない特性を発揮するようになる。
 「最初に期待したのは超臨界CO2の高い溶解力を利用して、塗装前の部品洗浄に使うことでした。しかし実用性がいまひとつ。そこで目を付けたのが塗料の希釈、つまりシンナーの代替という用途だったんです」
 スプレー塗装では有機溶剤で塗料を希釈し、粘度を下げる必要がある。その量は重量比で塗料と同量。このシンナーをすべてCO2 に置き換えられれば、VOCはもともと塗料に含まれている真溶剤だけになり、従来比3分の1にまで抑えられる。05年、同社と産総研東北センター、宮城県産業技術総合センターとの共同開発が始まった。だが、試し塗りのサンプルを見た早坂さんは、当初この研究に懐疑的だったという。
 「表面なんか、すりガラスみたいにザラザラでね。これで大丈夫かと思いました。ただ可燃性の塗料に対して、常温で使え、しかも無害な超臨界CO2 は魅力的でした」

CO2を使うことで、塗装プロセス全体でのCO2排出量も低減

 開発当初は、既存の塗料の中から顔料ポリマーを含まないクリア塗料とCO2の相性を試した。クリアと混合すると、超臨界CO2はその高い圧力と強力な溶解力で、塗料の粘度を下げた。しかも使用量は塗料の3分の1で済むこともわかった。だが、塗装装置は問題山積。まず、塗料とCO2を混合するタイミング。
 「超臨界CO2と塗料は、混合器内で『一気に』混ぜ合わせなければいけません。混合しつつ、スプレーガンに送り込み噴霧する。この一連のプロセスを、混合器内の圧力を落とさず連続的にやる必要があった」
 そこでマイクロミキサーを使って瞬間混合を実現すると共に、混合器の中が見えるよう、耐圧ガラスの窓を付けた。クリアとCO2がうまく混ざると中が透明に見え、混合がうまくいっていないとクリアが析出して濁る。超臨界状態がこのように可視化されたことは、実験に弾みをつけた。
 「ガンも従来の口径では大きすぎ、塗料が一気に噴き出してしまう。高圧噴霧ノズルの開発や運転条件の検証を重ねた結果、希釈溶剤を添加することなく微粒子で安定して塗れるようになった。塗料の垂れもない。当初の懸念も忘れ、これはいけると(笑)」
 こうした工夫が実を結び、塗膜は従来よりも薄く、強く、美しく仕上がるまでになった。CO2専用塗料の開発も進み、今年中には実用機も市販される。ただ気になるのは、VOCが減る一方で温室効果ガスであるCO2は増えてしまうという点だ。
 「よく言われます。でも、使用するのは工場で排出するCO2を回収したもの。さらに塗料の製造から塗装、乾燥までのCO2排出量をトータルで試算すると、従来の塗装法に比べて、むしろ削減できるのです」
 では、すでにVOC対策として、多くの自動車メーカーが導入している水系塗料との比較ではどうか。こちらも、有機溶剤系より手間のかかる塗装前の洗浄工程、温度・湿度の厳しい管理が必要な塗装・乾燥工程での消費エネルギーを勘案すると、やはりCO2排出量は少なくなるという。
 「新システムを導入しても、従来の有機溶剤系塗装のラインはほぼそのまま使えます。また、これまでは一度希釈した塗料やシンナーは、余ったら廃棄するしかなかったんですが、そのムダもなくなる。ランニングコスト低減のメリットも大きいのですよ」
 宮城県による自動車産業誘致のプレゼンでも、この塗装システムが大きな関心を集めているという。地元発の先進技術が、誘致に伴う県の「優遇措置」以上の決め手になるとすれば、実に痛快な話である。

加美電子工業(株)

http://www.kamidenshi.com/

設立
1970年6月
資本金
4800万円
従業員数
126名(2009年12月現在)
ワンポイント
電子部品、機械部品、光学部品など表面処理加工(塗装・スクリーン印刷・シート印刷・ホットスタンプ・プレス・レーザー加工)の一貫生産

←戻る

イメージ1
イメージ2

超臨界CO2塗装の実験装置

イメージ3

混合器に設けられた窓から、超臨界状態が目視確認できる

イメージ4

塗膜品質の定量的な評価方法も導入された

イメージ5