受賞者紹介

ナノ粒子の実用化を可能にした世界初のナノ粒子分散装置

広島県呉市
寿工業(株)
その他受賞メンバー
大年善文、北風俊哉、田原隆志
推 薦 者
奥山喜久夫
顔写真

院去 貢  (61)
化工機事業部 技師長

ニーズを超えた機械をつくってしまった。その機械が新しい市場を創出したのは5年もたってからだった
summary

直径1nm(ナノメートル、10億分の1m=100万分の1mm)から100nmの微粒子をナノ粒子と呼ぶ。金属酸化物や有機顔料などをナノ粒子化すると、様々な特性を発揮するようになるため、利用範囲は大きく広がる。しかし、ナノ粒子には互いに絡まり合って凝集する性質があり、工業用原料として実用化するにはこれを分散させる必要があった。寿工業は、液体に混ぜた原料をセラミック製の微小ビーズと混合して撹拌・粉砕するビーズミル(粉砕機)が、粒子分散機にも応用できることを発見。0.1mm径の超微小ビーズを使用し撹拌エネルギーを精密に制御することで、ナノ粒子の均等な分散に成功。ナノ粒子の実用化を実現した。現在は、0.015mmビーズを使用する分散機も登場している。

summary

「使い途はあるのか?」誰もがそう思った微小ビーズで、あえて新製品を開発

 院去さんは長年にわたって遠心分離機やろ過機、粉砕機といった化学工業機械の開発に取り組んできた、生粋の技術者である。
 「86年に、当社は『アペックスミル』という粉砕機を発表しました。スイス製の粉砕機(ミル)の欠点を改良して、当社独自に開発した製品なのですが、これが後のナノ粒子分散装置の原点といえるでしょう」
 アペックスミルは、原料をより微細な粒子に砕く湿式媒体撹拌ミル、通称ビーズミルというタイプ。まず、あらかじめ粉末にした原料を水などに溶いて液状(スラリーという)にする。その中に硬度が高く摩耗に強いセラミック製のビーズを混ぜ、撹拌することで原料を細かく砕いていく。ビーズを小さくすればするほど、原料もより微小な粒子になる。92年になると0.3mm径という極小ビーズが登場。同社もそれに対応するミルの開発を目指した。ビーズの大きさはもうこれで十分だと誰もが思った。しかし、どこの業界にもチャレンジャーはいる。3年後の95年、あるビーズメーカーが0.1mm径のビーズを発表したのである。もちろんそんなビーズが使える粉砕機はない。これが院去さんの技術者魂をいたく刺激した。院去さんは0.1mmビーズ対応の粉砕機開発に、乗り出してしまったのだ。
 「ところがビーズが小さすぎて、完成した粒子と分離するためのフィルターが目詰まりする。悩んでいた時、スラリーを高速で回転させて遠心力で分離するという方法がひらめいた。当社の製品である下水処理用の遠心濃縮機技術が役に立ちましたね」
 だが、新機軸を盛り込んだ「ウルトラアペックスミル」に対して、市場は冷ややかだった。「0.1mmなんて何に使うのか」と。
 「そんな中、あるメーカーさんから、積層セラミックコンデンサーの原料であるチタン酸バリウムを、サブミクロン(1万分の1mm)単位の微粒子にできないかという依頼がきました。砕くのではなく、凝集している微粒子を、結晶を壊さずに分散させたいというのです。やってみると大変うまくいった。ならば、もっと小さなナノ粒子の分散にも使えるのではと、気づいたんです」

ついに見つけたナノ分散という新たな用途。後から時代も付いてきた

 ナノ粒子分散という新たな用途に希望を見いだした院去さんは、さらに実験を続けた。ナノ粒子の生成法はいくつかあるが、原料を高温で蒸発させた後、冷却して生成する熱プラズマ法などが知られている。しかし、その表面は非常に活性化しているため、互いに凝集して塊になってしまう。これを分散させないと、工業用原料として実用化はできない。それをビーズミルでやろうというのである。院去さんは0.1mm径のビーズとナノ粒子スラリーを混ぜ「ウルトラアペックスミル」に投入した。スラリーは放射状のピンが何段にも突き出したローターで撹拌され、凝集していたナノ粒子は分散していく……はず。最後にセパレーター(遠心分離機)でビーズを分離した。その結果、
 「0.1mmビーズを使えば、凝集したナノ粒子の結晶を壊さず、均等に、しかも再凝集することなく分散させられることがわかったんです。私たちの新発見でした」
 さらに実験の過程で0.2mm径以上のビーズでは衝撃力が大きすぎ、ナノ分散はできないこともわかった。使い途がないと言われた0.1mm径のビーズこそ、問題解決のカギだったのである。なおも実験を重ねることで、原料や用途に応じて、ナノ粒子を最適な大きさに分散させるノウハウもわかってきた。それでも、装置は3年間でわずか10台しか売れなかった。しかし、00年以降、状況は一変する。当時の米国クリントン政権がナノテクノロジーを国家戦略と位置付けたことで、「ナノ粒子分散装置」が注目を集め始めたのだ。国内外から、顧客が次々と同社を目指してやって来るようになった。
 「お客さんたちは、一様に驚いていましたね。『今まで使っていたのは何だったのか』と」
 ここから生み出されたナノ粒子の用途は、もはや枚挙にいとまがない。液晶カラーテレビやインクジェットプリンタの有機顔料、積層コンデンサーの誘電体、光触媒、金属ペーストや導電性塗料、そして化粧品などなど。当初は「技術者の独りよがり」に見えたナノ粒子分散装置。しかし自らが開発したものに対する自信と、飽くことなく実験を続けた開発チームの粘り、そして時代を味方に付けて、この装置は見事に新たな市場を創出してみせたのである。

寿工業(株)

http://www.kotobuki-ind.jp/

設立
1935年3月
資本金
4800万円
従業員数
500名(2009年12月現在)
ワンポイント
鋳造製品、鉄鋼材、化学工業機械メーカー。ナノ粒子分散装置は同社化工機部門の粉砕、ろ過、遠心分離技術の総合から生まれた

←戻る

イメージ1
イメージ2

最適な分散方法を求めて実験が繰り返される

イメージ3

実験用ナノ分散装置。中央のシリンダー内部でスラリーがナノ分散される

イメージ4

上/チタン酸バリウムスラリーのナノ分散前(右)と分散後(左)。白濁していたスラリーはほぼ透明に
下/大きな粒子となって沈殿していたインク顔料(右)は、ナノ分散でコロイド化し、全体が真っ黒だ