受賞者紹介

世界中で利用されるオープンソース型プログラミング言語「Ruby」の開発

島根県松江市
(株)ネットワーク応用通信研究所
その他受賞メンバー
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推 薦 者
(財)ひろぎん経済研究所
顔写真

まつもとゆきひろ
(本名:松本行弘) (44)
フェロー

プログラミングは楽しいもの。生産性の向上だけじゃなく、「Ruby」はそのことを教えてくれる
summary

「Ruby」は、まつもと氏がプライベートで開発を始めたプログラミング言語である。記述しやすいスクリプト言語であり、開発当時、新しい概念であったオブジェクト指向を徹底したことで生産性に優れた言語となった。95年、オープンソースソフトウエアとして公開。以後、国内外を問わず多数のユーザーや研究者により使用・検証・改良が続けられ、その中から優れた派生バージョンも誕生。世界中で使用されるメジャーな言語となった。後に氏が島根県松江市のネットワーク応用通信研究所勤務となったことから、地元自治体が「Ruby」に着目。現在、世界でも類を見ない、産学官連携による「Rubyを核とした地域振興プロジェクト」が進行中である。

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エンジニアとしてラクをしたい。そんな本音と情熱が生んだ簡易で生産性の高い言語

 プログラミング言語が、はたして「もの」か否かはともかくとして、「ものづくり日本大賞」初のソフトウエアでの受賞である。
 「パソコンに初めて触れたのは、中学生の時です。自分のプログラミングどおりに機械が動く。そこに面白さを感じましたね」
 大学を卒業後、まつもとさんはシステム開発の仕事に就く。そして業務のかたわら、個人的にプログラミング言語の開発を始めた。
 「当時、僕は『Perl』という言語を使っていました。いい言語でしたが大きく複雑なソフトをつくる際に、データを手際良く整理するための道具立てが足りない。一言で言えば、洗練されていなかった。そこで基本の思想は受け継ぎつつ、より使いやすい言語をつくろうと思ったんです」
 93年、「Ruby」の最初のバージョンが完成。95年にまだ草創期だったインターネットで発表した。ソフトウエアの設計図ともいえるソースコードを無償で公開し、誰もが自由に使用、検証、改良、配布が行えるオープンソース型の開発手法である。
 やがてRubyは海外でも広く使用されるようになる。きっかけはデンマークで開発され、04年に公開された「RoR(Ruby on Rails)」だった。この「RoR」を使い、ブログシステムをわずか15分でつくってしまうという衝撃的な動画も公開され、インターネットモールの構築といったウェブアプリケーション開発でRoRを使うことが世界的ブームとなった。
 「ソフトウエアの品質と生産性は、それにかける時間やコスト、エンジニアの労力との関係で決まります。ところがRoRは品質を維持しながら、驚くべき生産性を実現していた。実に画期的なツールでした」
 ツールが非効率的だと開発は労働集約型になり、エンジニアは疲弊する。Rubyは記述の仕方も簡潔で、機械に任せられるところは任せてしまう、使いやすい言語。つまり仕事がラク。すると生産性は上がり、人間はもっと創造的な仕事に注力できる。ユーザーがプログラマーではない場合はなおさらだ。科学者が自分で研究用のソフトをつくるといった場合、言語の利便性は研究自体の進捗にかかわってくる。Rubyがゲノム解析や気象シミュレーションといった多くの科学分野にも普及し、NASA内でも活用されているのは、その使いやすさゆえのことである。
 「Ruby開発のモチベーションは、実は『ラクしたい……』ということにあったりします。ただ、ラクするために始めたのに、何で今こんなに忙しいんだ、とは思う(笑)」

前代未聞の「プログラミング言語で地域振興を!」という提案。思わず、「正気ですか?」

 06年のある日、松江市の職員がやって来てまつもとさんにこう言った。
 「Rubyで地域振興をしたいんです」
 まつもとさんは思わず聞き返した。
 「『正気ですか?』と(笑)。かたちのないプログラミング言語で町おこしなんて聞いたこともない。でも、前例のないことを嫌がるお役人が、そんなことをやろうとする勇気と市長の決断力には感銘を受けましたよ」
 かくして松江市と島根県の前代未聞の産業振興策が動き出した。まずは人材育成。大学や高専、高校でRubyを教材とした情報教育が始まった。第1期生は、すでに県内の企業で即戦力として活躍しているという。まつもとさんも09年の1年間、島根大学の客員教授に就任した。さらに県庁のシステム開発はすべてRuby。小規模ながら、開発型IT企業の誘致も決まった。
 「まあ、松江市や島根県におけるRubyの認知度が異常なんですけどね。何しろ地元で勉強会を開くと参加者はほとんど経営者。で、会社に戻ると技術者に『Rubyで開発しよう!』なんて言っちゃいますからね(笑)。他県では、絶対にあり得ません」
 もはや松江では、Rubyは実在する「もの」に近い存在なのかもしれない。しかし、まつもとさんにはまた別の思いもある。
 「うちにも高校生の子どもがいて、パソコンを使う。でも、それって全部、誰かがつくったソフトを利用しているだけなんです。僕が子どもの頃は、コンピュータってプログラミング以外何もできない道具だった。それでも僕には、何でもできる魔法の箱でした。だから今の人たちにも、Rubyで魔法の箱の可能性を試してほしいんです」
 Rubyが「もの」か否かはともかく、まつもとさんは間違いなく「ものをつくる」人だった。受賞にふさわしい人である

(株)ネットワーク応用通信研究所

http://www.netlab.jp/

設立
2001年7月
資本金
2450万円
従業員数
51名(2009年12月現在)
ワンポイント
オープンソースソフトウエアを使ったシステム開発、ソリューションを提供する企業。「Ruby」の牽引役的存在でもある

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