受賞者紹介

革新的な厚鋼板製造プロセスを確立し、建産機・エネルギープラント用高機能高強度厚鋼板を開発

東京都千代田区
JFEスチール(株)
その他受賞メンバー
伊藤高幸、上岡悟史、崎山哲雄、諏訪稔、多賀根章、津山青史、長尾彰英、平田健二、和田典巳
推 薦 者
(社)日本鉄鋼連盟
顔写真

鹿内伸夫  (53)
知的財産部長

30年来の宿願だった厚鋼板製造の完全オンライン化。成功の鍵は、誘導加熱への転換にある
summary

厚鋼板の製造プロセスにおいて、急速加熱焼き戻し熱処理を活用した金属ミクロ組織の制御技術を確立。それにより、従来の技術では実現できなかった高強度と耐遅れ破壊特性(壊れにくさ)、低温靭性(ねばり強さ)、溶接施工性(接合しやすさ)を同時に達成した。また、その制御を実現する大型誘導加熱装置を開発し、圧延ライン上に設置。生産性の向上と大幅なエネルギー削減を果たした。これらの技術革新により、引っ張り強さ780 ~ 1200MPa (メガパスカル)級の高機能高強度厚鋼板の新商品シリーズ化に成功し、製品は超大型600tクレーンなどの大型構造物に使用されている。

summary

オンライン化の最大の障壁は、焼き戻し熱処理に時間がかかること

 建設機械や産業機械などに使われる厚鋼板は、多くのプロセスを経て製造される。鋼の塊を加熱して軟らかくし、圧延機で延ばした後に冷却。最後に強度、延びを適正に調整するために焼き戻し熱処理を行う。
 「連続した製造ラインを構築できれば、効率的な大量生産が可能になるので、私たちは30年以上前から製造のオンライン化に取り組んできました。しかし、最後までラインに乗せられなかったのが焼き戻し熱処理の工程。処理時間が長いことが原因でした」
 製造ラインをスムーズに稼働させるには、各工程の処理時間を合わせる必要がある。ひとつでも処理に時間がかかる工程があると、待ち時間が発生して全体がそれに引きずられるからだ。
 厚鋼板の製造で足を引っ張る存在だったのが、この焼き戻し熱処理の工程である。この工程では冷えた鋼材を600度程度まで加熱しなければならないが、時間短縮のために強い火力で急速加熱すると、鋼板の表面が変質してしまうのである。
 「従来のガス燃焼炉に代わる新たな熱処理の方法を何十年も探し続けてきました。95年頃から電機メーカーさんの技術開発が進み、ようやく電磁コイルを用いた誘導加熱という方法が使えるようになったのです」
 誘導加熱というのは、IH調理器と同じ仕組み。電磁コイルで変動する磁場をつくり、そこに金属を置くと電磁誘導により金属内に渦電流が流れ、金属の電気抵抗で熱が発生するのである。
 かつては、厚鋼板の熱処理に誘導加熱を導入するには、小さな火力発電所1基分ぐらいの大電力が必要といわれた。しかし、電機メーカーの技術革新で、誘導加熱の劇的な省電力化が実現したのである。

誘導加熱を導入したことで新たな製品も誕生

 電機メーカーの技術革新を受け、社内では90年代後半から誘導加熱の基礎研究が始まった。03年に実用化へテーマが移ると、新技術の片鱗が徐々に見えてきた。
 誘導加熱では金属表面で発熱するので、表面から内部に熱が伝わるのは従来と同じ。しかし、金属組織を変質させることなく、急速に加熱できることがわかった。そこで、一度に加熱するのではなく、複数回に分けて加熱し、ターゲットとなる600度という温度に近づけていく方法を採用した。
 研究開発は、加熱温度や適用時間を変えては金属組織の変化を観察し、強度試験を行うという地道な作業の繰り返しである。
 「金属の内部は目に見えないので、表面から内部にまでどう熱が伝わるかは、コンピュータによるシミュレーションで推測するしかない。だから、小さな試験片で成功した方法が、実物の鋼板では再現できないこともままあるのです」
 見えない熱の動きを追いかけ、3年以上の年月を費やして、ついに最適な回数と熱処理の条件を見つけ出した。
 その成果をもとに、電機メーカーと共同で大型誘導加熱装置を新たに設計・開発。厚鋼板の製造ラインに設置するような巨大な誘導加熱装置は、今まで世の中に存在しなかったのだ。
 新開発の誘導加熱による熱処理プロセスは、従来のガス燃焼炉を使うそれに比べると、70倍もの加熱速度アップを実現。03年11月、誘導加熱による熱処理を採用した厚鋼板製造ラインの操業が始まった。
 さらに、誘導加熱を導入したメリットはそれだけにとどまらなかった。
 「長年の課題だった熱処理のオンライン化に成功し、大量生産が可能になっただけでなく、ガス燃焼炉からの転換でCO2排出量は10分の1になった。さらに高機能・高強度な新製品の開発にも成功したのです」
 複数の誘導加熱装置を駆使することで、熱処理の精密制御が可能になり、今までにない付加価値を備えた厚鋼板の製造が可能になった。
 この熱処理法はHOP(ヒート・トリートメント・オンライン・プロセス)と名付けられ、HOPによって製造可能になった新製品は、同強度の従来製品と比較すると、最大で3割の軽量化を実現。現在、大型の自走式クレーンやショベル、ブルドーザーなどの鋼板に使われている。車両が軽量化されたことで、燃費向上にも大きく貢献しているのである。

JFEスチール(株)

http://www.jfe-steel.co.jp/

設立
2003年4月
資本金
2396億円
従業員数
1万4513名(2009年12月現在)
ワンポイント
日本鋼管と川崎製鉄の鉄鋼事業を統合して発足。粗鋼生産ランキングでは世界第6位(08年世界鉄鋼協会調べ)

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金属片を0.3程度に薄くスライスして、電子顕微鏡で観察するサンプルを製作

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熱間加工再現試験装置は、試験片に熱とひずみを加えて金属組織がどう変わるかを試験するもの。鋼材の圧延や熱処理などの工程を研究室で再現できる

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試験片に最大200tの力をかけて、引っ張りに対する強さを試験する200tアムスラー試験機

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金属内部の組織を原子の結晶レベルで観察できる透過型電子顕微鏡。熱処理の方法によって、金属組織がどう変わるかを見る