受賞者紹介

耐食性を飛躍的に向上させたバイオ燃料タンク用鋼板(エココート-S)の開発

北九州市戸畑区
新日本製鐵(株) 八幡製鐵所
その他受賞メンバー
伊崎輝明、小山勇昭、後藤靖人、末木裕治、杉山誠司、高橋靖雄、布田雅裕、水口俊則、山口伸一
推 薦 者
(社)日本鉄鋼連盟
顔写真

黒崎将夫  (50)
技術開発本部 八幡技術研究部 亜鉛めっき研究グループ 主幹研究員

めっき浴側の制御ではなく、鋼板表面のコントロールに鍵がある。その発見がブレイクスルーのきっかけ
summary

バイオディーゼル燃料は、長期間放置しておくと一部が蟻酸や酢酸などに変化し、バイオエタノール燃料は水分を含みやすい。そのため、通常の金属製タンクにこれらのバイオ燃料を入れると、腐食が助長される可能性がある。そこで同社では、サブミクロンオーダーで微細・精緻なめっき組織を制御し、従来と変わらない生産性で広範囲にわたって安定的に製造する技術を開発。バイオ燃料に対する高い耐食性を発揮する燃料タンクの錫(すず)-亜鉛めっき鋼板を開発し、実用化した。

summary

亜鉛が均一に分散しない。めっき浴側の制御では何をやってもダメだった

 バイオ燃料は、CO2を吸収して育つ穀物を原料につくられるので、カーボンニュートラルの燃料として期待されている。
 しかしこのバイオ燃料、実際に使用するうえでひとつ難点がある。バイオディーゼル燃料の場合、燃料タンク内で長期間放置されると成分に含まれる植物油が酸に変質する。バイオエタノール燃料も、水溶性なので水分を含みやすい。日本では、ガソリンや軽油に何%かバイオ燃料を混合させて使う計画が進んでいるが、これら腐食性の高い燃料を従来の燃料タンクに入れると、タンクの腐食を助長する危険性があるのだ。
 「従来は鉛めっきやアルミめっきが用いられていましたが、鉛は酸に弱く、アルミはアルコールと反応する。これらに耐える新しいめっきが必要になったのです」
 開発が始まったのは00年。その2年後に黒崎さんも開発に携わることになった。その時点で、アルミめっきと並行して商品化されていた錫(すず)─亜鉛めっき(エココート®-T)を、さらに進化させるという方向で開発は進んでいた。
 というのも、錫─亜鉛という組み合わせには非常に優れた特性があるからだ。錫は非常に耐食性の高い素材だが、傷が付いて地鉄が露出した場合には、そこから腐食が始まってしまうのが難点。燃料タンクの内側から傷が付くことはまずないが、タンクの外側は跳ね石が当たったり、積雪時に道路にまかれる溶雪剤の塩分にさらされたりするので、外側からも腐食が起きる。
 そこで亜鉛の出番である。亜鉛には、めっきに傷が付いても亜鉛自身が溶け出して、鉄を守る犠牲防錆という特性がある。
 「錫のバリア効果と亜鉛の犠牲防錆というのは、理想の組み合わせです。ところが、従来の方法で錫─亜鉛めっきを施しても目的とする性能が出ませんでした。めっき層の中で亜鉛が偏析(偏在して凝固)してしまい、均一に分散しないのです」
 亜鉛が編在した個所が選択的に腐食し、鋼板の耐食性を劣化させてしまう。
 錫─亜鉛の溶融めっきでは、高温で溶かしためっき金属に鋼板を漬け、取り出してガスを吹き付けて付着量を制御した後、冷却してめっきを凝固させる。この時、亜鉛が特定の個所に集まり凝固してしまうのだ。
 「冷却速度を変えたり、めっき浴に凝固しやすい成分を添加したりして、何度も実験を繰り返しましたが、何をやってもダメ。浴側の制御では不可能だった。そんな中で、あることに気づいたのです」
 溶けためっきを固める時、ガスを吹き付けて冷却するので、当初、めっきはガスにさらされた側から冷えて凝固していくと考えていた。しかし、実は違っていた。鋼板の側から冷えていくのである。

サブミクロンオーダーの組織制御により問題を解決

 「凝固核が鋼板表面に生成するということは、鋼板の表面に凝固を促進する何らかの処理を施せばいいのではないかと考えた」
 めっきをする前に、鋼板表面に特殊な処理をして表面に微細な凹凸を付けたところ、亜鉛が均一に分散したのだ。黒崎さんが開発にかかわって約半年でそこまで到達。しかし、本当に大変だったのはその後である。
 「亜鉛が安定して分散する条件を探すことと、現場の操業によって品質にバラつきが出ないような製造方法を確立することが重要な課題になったのです」
 最適条件を探すのに近道は存在しない。条件を変えて実験を繰り返すのみ。最終的には、0.1(マイクロメートル)程度の深さの凹凸を、1当たり約100億個もつくり出すというきわめて精緻な組織制御の技術を開発。塩水を浴びせ10年間の実走行に相当する腐食促進試験や、劣化した燃料を用いた腐食試験を行い、安定した製造技術を確立するのに丸3年を要した。こうして新世代の錫─亜鉛めっき鋼板「エココート®-S」は、05年7月に実用化された。
 日本では、まだバイオ燃料はほとんど普及していない。しかし、バイオディーゼルとバイオエタノールの両方に対応可能で、100%マテリアルリサイクルが可能という特長が認められ、現在国内で販売されている新車の燃料タンクの半数近くにエココート®-Sが採用されている。見えないところで、自動車のバイオ燃料対応が進んでいる。その陰には同社の支えがあるのだ。

新日本製鐵(株) 八幡製鐵所

http://www.nsc.co.jp/yawata/index.html

設立
1950年4月
資本金
4195億円(新日本製鐵(株)全体)
従業員数
1万7646名(2009年3月現在:新日本製鐵(株)全体)
ワンポイント
1901年(明治34年)に官営八幡製鐵所として創業。自動車用鋼板や鉄道用レールなどを製造する業界のリーディング企業

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溶融めっきを実験室で作製する溶融めっきシミュレーター。中央部に溶けた金属(エココート®-Sの場合は錫-亜鉛)を入れ、上部から鋼板を浸漬してめっきする

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燃料タンクの内面を試験する燃料循環腐食試験機。成形された燃料タンクに、劣化ガソリン+水など腐食性のある燃料を入れ、循環させて促進試験を行う

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地鉄に前処理を行って錫─亜鉛めっきを施すエココート®-S。1コイルが2000~3000mあり、加工業者によって燃料タンクに姿を変える