受賞者紹介

外科手術に進化をもたらした0.1mmの血管縫合を可能にする世界最小針糸

千葉県市川市
(株)河野製作所
その他受賞メンバー
岩立力、植田仁子、久家聖一、松本啓介
推 薦 者
千葉県商工労働部産業振興課
顔写真

河野淳一  (46)
代表取締役社長

1本1万円で使い捨てする手術針。コストダウンができるものなら私たちがつくる意味はない
summary

マイクロサージャリー(微小外科)は、手術顕微鏡と極細の糸、そして微細な手術針の開発と共に発展してきた。00年当時、その針の太さは0.1mmが標準だったが、医師たちはさらなる微小化を求めていた。河野製作所はその要望に応え、直径0.03mm、長さ0.8mm、糸の直径0.012mmという針糸の開発に着手。04年に世界最小の針糸として実用化した。この開発は針の素材と糸を除いて、全工程が同社内で行われている。その後、0.04~0.08mmのサイズも開発。同社の手になるこれらの微小針糸と周辺システムの充実により、様々な診療科目でマイクロサージャリーが取り入れられるようになった。現在同社が抱える開発案件は30を超えており、医療技術のさらなる発展が期待される。

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0.1mmから一気に0.03mmへ。顕微鏡下の世界で活躍する世界最小の針糸

 医師が顕微鏡を使って行う精緻な手術を、マイクロサージャリー(微小外科)という。その技術は人の手の驚くべき器用さと、それに応えてより小さく、より細くなっていった手術針によって進歩してきた。現在、世界最小の手術針は直径30µm(マイクロメートル)、すなわち0.03mm。長さは0.8mm(一般的な外科用小針は直径0.5mm、長さ15mm程度)。開発した河野製作所は、「クラウンジュン」のブランドで国内外に知られたメーカーだ。
 「従来のマイクロサージャリー用の針は直径0.1mm。これは0.5mmまでの大きさの組織の手術に使えた。そこから先生方が様々な微細手術を考案されていったんです」今から10年ほど前、河野さんはある大学の教授から「0.5mm未満の組織を縫合できる針糸(糸付きの手術針)ができないか?」と持ちかけられた。河野さんは悩んだ。
 「すべてが未知の領域。しかも微小針糸の開発は、必然的にそのサイズに合わせた手術用具、顕微鏡など周辺器材・機器の開発を伴います。リスクは大きいと思いました」
 しかし、河野さんはこのオファーを受けた。開発ターゲットは直径0.03mm。素材は、剛性に加えて粘りのある特殊なステンレス。だが原料状態では、綿のようなフワフワの塊である。それを一本一本、直線に伸ばす処理法の開発から始めた。その線材を切り、先をとがらせ、曲げ、電解研磨で研ぎ上げる。針の形状設計も重要だ。
 「針は長いほうが加工が楽ですが、しなって使いにくいうえ曲がりやすい。直径0.03mmなら長さは0.8mmが限界。手術針は曲がる、折れるが厳禁の『刃物』ですから」
 糸の取り付けも至難の業だった。なんと直径0.03mmの針を縦に2つに割り(!)、糸を挟んでかしめているのだ。04年、3年の開発期間を経て世界最小針糸が完成。針糸のみならず製造装置や工作機械、治具に至るまですべて自社開発・製造という徹底ぶりだった。おかげで0.1mmの血管や神経の吻合、0.05mmの組織の手術が可能になるなど、マイクロサージャリーは飛躍的に前進した。切断された指の再接合、皮膚や筋肉の移植手術などで細い血管や神経、筋肉繊維などを精密に縫合できるようになり、
 「見た目だけでなく機能まで回復できるようになりました。乳幼児の細くて軟らかい血管も確実に縫合できる。手術患部を小さくできるので治癒も早い。小さい針糸は低侵襲(肉体的・精神的負担が少ない)医療の実現にも役立っているわけです」

中小企業=縁の下ではない。社会貢献度の高いニッチ市場で存在を世界にアピールすべき

 医療品メーカーには大手企業も少なくないが、こうした針糸の開発には積極的ではない。0.03mmの針糸には彼らが欲する規模の市場がないからだ。しかし、市場の大小と、商品の必要性・重要性は別物のはず。
 「事実、『患者が少ない』といった理由で、人を救う器具が商品化されないことも。そういう社会貢献度の高いニッチ市場にこそ、私たち中小企業の存在意義があります」
 やる以上は「過剰品質」を追求する。それが評価される分野、品質に納得してお金を払ってもらえる製品でなければ、すぐ外国に追い付かれてしまう。事実、0.03mm針糸の値段は1本1万円。血管1本を縫合したら廃棄される消耗品がである。しかしその針1本の製造にかける手間は30工程以上。それがオンリーワンの機能と品質を生む。同社はすべてのノウハウを社内に置くことで、高付加価値製品の開発能力と、企業としての独立性を担保しているのである。
 「海外で商談をしていると『Made in Japan』は、高品質を意味するブランドなんですね。『なのにどうして、もっとそのブランドを押し出してこないのか』って言われますよ、外国人からは」
 一般に日本の中小企業は「ものづくり」にこだわるあまり、世界に通用する技術を持ちながら大企業の下請けに甘んじたり、外国企業に丸ごと買収されてしまう例も少なくない。河野さんはそこに危機感を持つ。
 「日本の中小企業のものづくりは、自力で世界を相手にできるんです。当社の受賞はその点も評価されたようでありがたいのですが、できれば『ものづくりのその先』も支援してもらえれば、さらにありがたい」
 その考え方は中小企業の経営者というより、ベンチャー起業家のようだ。実際、河野さんはいつも社員にこう言っている。
 「うちは創業60年のベンチャーだから」

(株)河野製作所

http://www.konoseisakusho.jp/

設立
1970年5月(創業1949年)
資本金
1000万円
従業員数
90名(2009年12月現在)
ワンポイント
微小外科手術用針糸など、多品種少量生産・高付加価値の医療器具、用品を自社一貫生産・販売する開発型ベンチャー企業

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針に糸を付けている……のだが、肉眼ではまず見えない

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顕微鏡で見た直径0.03mmの針を縦に2つに割るカッター。下の溝に針がセットされる

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「針糸」になった状態

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やや大きめの針は、糸の取り付け穴を極細のドリルやレーザーで開ける

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左:製造装置や治具、工具のたぐいもすべて内製している
右:マイクロサージャリー専用の手術器具もすべて同社製