受賞者紹介

微粒子高速衝突による金属成品の表面加工熱処理法の開発と、表面改質技術の高度化

名古屋市北区
(株)不二機販
その他受賞メンバー
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推 薦 者
愛知県産業技術研究所
顔写真

宮坂四志男  (62)
代表取締役

F1などレースの世界の勝利、その陰には我々の技術がある
summary

金属部材などに粒子を打ち付けることで部材の強度を高めるショットピーニング処理は、これまで、効果を高めるために噴射する粒子を堅く大きなものにする傾向にあった。しかし、同社は逆の発想で、従来の3000分の1(体積比)程度の微粒子を高速で数十秒~数分間噴射させる技術を開発。これにより鍛錬効果だけでなく、金属表面で急速加熱・冷却を瞬時に繰り返す熱処理効果を同時に得ることが可能になった(WPC処理)。さらに微粒子を用いたことで、精密部品への適用も可能となり、現在では機械部品、切削工具、金型など幅広い分野で利用されている。

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ぶつける球を小さくしたら何が起きるのか。思い付きからの大発見

 発展途上国などでは、何十年も前に製造された日本車が今も元気に走り続けていたりする。「日本車は故障しない」との評価は世界中で定着しているが、何が違うのか。自動車メーカーの技術力が高いだけでなく、自動車を構成する何千ものパーツの一つ一つが高精度で高強度であるからだ。そういったパーツを製造しているのは日本の下請けメーカーであり、不二機販もその1社だ。
 同社は30年ほど前に、WPC(ワンダー・プロセス・クラフト)処理という金属部材の寿命を飛躍的に延ばす技術を開発。
 「米軍用ジープのサスペンションは高い強度と柔軟性を実現するため、板バネの製造工程でショットピーニングという技術が使われていた。戦後、この技術がアメリカから日本に入ってきたんですが、WPC処理はそれをベースにして開発した技術です」
 たとえばアルミ鍋を例に取ると、鍋の表面には魚の鱗のような模様があるが、これはハンマーでたたくことで強度を高める鍛練処理が施されているからだ。ショットピーニングとは、それを効率良く機械的にできるようにした技術で、直径0・8~1mmの大量の金属球をガスで噴出させ、金属部材の表面にぶつける仕組みである。
 「大きな部品にはショットピーニングが使えるのですが、精密機械の部品などは1mmの球でもぶつけると壊れてしまう。それなら、球を小さくすればいいのではないかと。30年前頃から、ミクロン単位の球の製造技術が確立されたので試してみたんです」
 球といっても直径50µm(マイクロメートル)、体積比で従来の約3000分の1という粉のような微粒子だが、高圧ガスで高速に噴出してぶつけたところ、驚くべき効果が出た。工作機械の刃物や金型、自動車用変速機のギアなど、これまでショットピーニングが使えなかった部品にこのWPC処理をすると、最大で寿命が10倍に延びたのである。
 あっけないほど簡単。開発秘話なんて何もない」と宮坂さんは笑う。

大手自動車メーカーも認めざるを得なかった想像を超えたWPC処理の効果

 しかし、問題はその後だった。
 「『刃物にショットピーニングなんて何を考えているんだ』と誰も信用してくれない。テストの結果でようやく信じて導入した会社は、競合他社に知られないよう口外しない。営業では非常に苦労しました」
 転機が訪れたのは開発から15年後。大手自動車メーカーへのライセンス供与が決まったのだ。
 自動車の自動変速機は徐々に多段化が進んできたが、ギアボックスは大きくできないので、ギアを薄くして精密化する必要がある。しかし、自動車を走らせるための強大なトルクは同じなので、薄いギアでも従来と同じ強度や耐久性が求められる。
 「大手メーカーにはプライドがあるので、中小企業が持つ特許技術なんて使いたがらない。ほかのあらゆる方法を試し、WPC処理でしか高い性能と低コストの両立を実現できなかったので、しぶしぶ契約しただけです(笑)」
 ともあれ、日本のトップメーカーが採用したという事実の宣伝効果は絶大で、またたくまに日本の全自動車メーカーとライセンス契約を締結。現在では国内130社に供与している。
 WPC処理は学会からも注目を浴び、中部大学と名城大学が中心となって技術分析を行ったところ、意外な事実も判明。通常のショットピーニングは鍛練処理だけだが、微粒子を使うWPC処理では、衝突時に熱が発生し、急熱・急冷を繰り返す熱処理が同時に行われていた。ショットピーニングの延長では考えられない効果が出るのはそのためだった。
 「F1の世界で"常勝"と呼ばれたいくつかのトップチームに対しても、弊社がエンジンのWPC処理を手がけてきました」
 F1など自動車レースの世界では、エンジンをどこまでWPC処理するかが勝敗を左右する、とまでいわれているのだ。
 現在では、微粒子やガスの素材、速度を変えることで様々な加工法を考案している。ガラスにめっきのようなコーティングを施す技術や、従来は不可能といわれてきたアルミ素材の窒化(鋼表面の高硬度化処理)技術の開発にも成功。WPC処理はまだまだ大きな可能性を秘めているのだ。

(株)不二機販

http://www.fujikihan.co.jp/

設立
1977年4月
資本金
2000万円
従業員数
21名(2009年12月現在)
ワンポイント
WPC・PIP処理の受託加工、自然触媒PIP製品の製造・販売など。WPC処理の特許は130社にライセンスしている

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宮坂さんが手にしているのは1本約100万円もするレース車エンジンのコンロッド。エンジンをどこまでWPC処理するかが勝敗を左右する

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粉末状の金属微粒子を高速で部品に噴出することで、寿命が何倍にも延びるというのは、何か魔法のようである

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ガラスにめっきすることは不可能とされているが、WPC 処理の応用で可能に。スズの微粒子をぶつけると、衝突時の熱でスズが溶けてガラスにコーティングされる

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WPC処理の応用技術で製造した酸化チタンの浄化フィルターを利用すると、このような狭い水槽で約100匹の錦鯉を育てられる。80cmクラスの錦鯉がうようよ