受賞者紹介

地場産業の英知を結集した、環境にやさしいトイレットペーパー製造プロセスの開発

愛媛県四国中央市
泉製紙(株)
その他受賞メンバー
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推 薦 者
西日本家庭紙工業組合
顔写真

宇高昭造  (66)
代表取締役社長

特許で囲わず広げるのが
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新聞紙、雑誌、印刷用紙などの古紙を活用し、家庭紙として再利用するには、古紙を脱墨し、漂白する必要がある。その際に漂白剤などの化学品や大量の洗浄水を使用するため、再生家庭紙をつくり出すこと自体が排水汚濁の原因となっていた。この問題を解決したのが、同社が地元企業を巻き込みながら開発した、無漂白かつパルプ繊維を傷付けない古紙処理技術「HDK法」だ。これにより、環境にやさしいだけではなく、大手メーカーのバージンパルプに匹敵する白さを備えた高品質、高価格の古紙再生トイレットペーパーの製造が可能になった。北四国の一中小企業が開発した新たな製造プロセスが、今や国内外の製紙業界のスタンダードとなっている。

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家業が環境破壊に加担?その現実に直面したことが、技術革新への挑戦の始まり

 「71年、化学メーカーを28歳で退社し、再生紙工場を営む家業に就いた私は驚きました。子どもの頃に遊んだ川の汚れがあまりにひどい。当社や周辺の工場は、廃水処理設備など持っていませんでしたから……」
 故郷の惨状に心を痛めた宇高さんが入社後すぐに取り組んだのが、地元機械メーカーK社との水処理プラント共同開発だ。当時は公害対策基本法が改正されたばかり。約半年かけて完成させた、澄んだ排水を出すプラントは新聞記事に取り上げられる。200社強の同業者が視察に訪れ、その後K社はこのプラント製造を数件受注。宇高さんいわく、「環境保護に役立つ技術を特許で独占する気はない。どんどん広げるべき」。この成功を機に、地場産業を巻き込んだ地球にやさしい技術開発が加速する。
 次に目指したのが、抄紙機の性能向上。生産効率を高め、従業員の休日を増やしたかったのだという。再びK社と設計したテスト機は、従来の250m/分程度の抄速から400m/分以上にスピードアップ。ただ、従来のまま帯板をセルに巻き、小さな脱水ゾーンに分けた構造では減圧微振動が生まれ、すいた紙に横縞状の地合いが付く。そこで目の粗い下網と目の細かい上網とを組み合わせたハニカム構造のセルに変更。これが奏功し、多品種少量生産に対応でき、地合いに影響のない抄紙機の開発が完了した。これがK社により「ベストフォーマー」と名付けられ、今では1300m/分の抄速を実現。国内外で活躍している。

エネルギー効率を高め、環境にやさしい紙づくり。青写真を次々と実現

 73年、瀬戸内海環境保全特別措置法が施行され、工場排水は水質汚染の指標のひとつであるCODの総量規制を受ける。さらに第1次オイルショックの直後でエネルギーコストは高騰し、製品は量よりも質が求められるように。そんな時代の要請を受け、地元企業と共に同社が開発した古紙再生・製造プロセス「HDK法」が、紙工業界の未来に大いなる貢献を果たすこととなる。
 「古紙の再生プロセスには、パルパーで材料を撹拌し、フローテーターでインクとパルプ繊維を分離する工程があります。愛媛県製紙試験場(現・紙産業技術センター)で文献を輪読した私は、化学薬品処理より物理的作用による古紙処理のほうが、環境にやさしくエネルギー効率も高いと結論。そしてパルパーとフローテーターの工程間に、繊維同士の摩擦力を利用して古紙を均一に離解し、インクを細かな粒子に分散するニーダーを置くことを発想しました」
 そして、考え方が一致した地元の設備工場S社との古紙処理テストプラントの共同開発をスタート。同時に、従来の箱型フローテーターではインクを吸着した泡がデッドスペース(四隅)にたまり、インクがパルプ繊維に再付着するという問題解決にも着手した。エゼクターを利用した密閉型のフローテーターの完成までに6年の月日を費やしたが、高濃度ニーダーと密閉型フローテーターを組み合わせた「HDK法」を用いた第1号プラントは、84年にAIPA(愛媛パルプ協同組合)が導入。現在も一部が改良され元気に稼働している。
 これにより、無漂白でも白色度が高く、インク残渣が少ない再生紙の生産が可能となった。また、従来の低温蒸解法は古紙1t当たり約80kgのCODを溶出していたが、約20kgに削減。用水単位も25㎥/製品パルプtと、3分の1以下に。現在、AIPAの主設備はこの仕組みを発展させ、難処理古紙の再生システムを確立。50%程度だったリサイクル率は70%程度に向上した。
 その後も、工場事務の全コンピュータ処理化、老人雇用促進技術として全国表彰された、マウスひとつで3台のロボットを操作するオートパレタイザーなど、宇高さんは"必要"と思う技術を、社員、地元の機械工場と共に開発し続けている。
 「中小企業は、市場という大海を埋め尽くすことはできない。しかし、美しい島をつくることができるのです。"北四国流"と勝手に名付けていますが、近未来の業界トレンドを形成するであろう一歩先んじた技術を生み出し続けることが、主要消費地から遠い四国の家庭紙工場の宿命であり、ものづくりの醍醐味だと思っています。"環境負荷の小さな紙づくり"。これが今後も私の基本テーマであり、ライフワークです」

泉製紙(株)

http://izumi.kami.ne.jp/

設立
1949年1月
資本金
4500万円
従業員数
88名(2009年12月現在)
ワンポイント
「HDK法」を筆頭に、古紙を活用した環境にやさしい高品質・家庭紙製造プロセスの入り口から出口までを開発

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微細化したインクを気泡に吸着させ、細分化されたインクを除去する「フローテーター」。用水を極度に節約し、無漂白で白い再生パルプをつくる

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古紙を高圧で練る。その摩擦力で、均一に離解し、インクを細かな粒子に分散処理する「ニーダー」

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従来法に比べ、生産効率を格段に向上させた「抄紙機」。多品種の製品に対応し、地合いの均一な薄葉紙を高速生産

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高水準の排水水質を維持し、本社前にあるお堀は日々透明度を増している。今では数千匹の鯉が泳ぐ

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ソフトなエンボス加工、プリント入り、芯なしなど、多様な古紙再生トイレットペーパーを全国で販売中