受賞者紹介

高精度ハードシリコーンレンズの生産効率化を実現したエジェクタピンレス樹脂成形生産システムの開発

宮城県亘理(わたり)町
マクセルファインテック(株)
その他受賞メンバー
●マクセルファインテック(株)/飯渕一郎、小笠原幸宏、小出大輔、蜂谷頼雄、平間浩之、渡邉直明
●日本ヒューチャア(株)/今井智將
推 薦 者
宮城県産業技術総合センター
顔写真

鈴石光信  (48)
みやぎ精密事業部
金型・技術センター
副センター長

あらゆる案を考え、議論し、実験する。もうダメだと思うまで突き詰める。ブレイクスルーはその先にある
summary

高い耐熱性と耐紫外線性という、光学材料として優れた特性を持つハードシリコーン樹脂。しかし成形時の粘度の低さと硬化後のもろさが、安定した連続生産を阻んでいた。いずれの問題もネックとなるのは、金型から製品を離型するためのエジェクタピン部分だった。試行錯誤の末、超音波による振動で製品を離型させることに成功。さらに金型以外の部分に振動が伝わるのを防ぐ免震構造、高温になる金型と熱に弱い超音波発振装置との断熱など、装置に様々な対策を施した。これによりハードシリコーンレンズの生産効率は飛躍的に向上。現在は、カメラ付き携帯のLEDフラッシュ用光拡散レンズが主な用途だが、自動車の灯火類などへの利用も期待されている。

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射出成形の常識が通用しない。素晴らしい特性を持ちながら量産を拒むシリコーン樹脂

 ハードシリコーン樹脂の光学レンズ素材としての特性に目をつけ、鈴石さんたちが量産技術の開発を始めたのは、05年のこと。狙いはカメラ付き携帯のLEDフラッシュ用光拡散レンズ。シリコーン樹脂は、それにぴったりの特性を2つも備えていた。
 「第一に樹脂でありながら二百数十度もの高熱に耐えるという点。携帯電話の製造過程では、プリント基板のハンダ付けという非常に高温の環境がありますからね。もちろん、高輝度LEDの発熱にも強い」
 シリコーン樹脂は、金型の中で170度にまで加熱して硬化させる熱硬化性の樹脂。だから製品も熱に強いというわけだ。
 「もうひとつは紫外線に強いということ。同じ熱硬化性でもエポキシ樹脂は紫外線によって黄変し、劣化します。しかしシリコーン樹脂は透明度を失わない。紫外線に近い波長を発する高輝度LEDフラッシュ用レンズとして、非常に有利な特性です。これは自動車のライトや街灯など、屋外で日光にさらされる場合にも当てはまる」
 だが、この樹脂には量産するうえで致命的な欠点があった。シリコーン樹脂原料は、25度程度の常温ではスライムのようなどろりとした状態である。これを金型に流し込むために加熱すると、今度はサラダオイルのようにさらさらの状態に。すると、
 「粘度が低すぎて、わずかな隙間にも流れ込んでしまうんです。合わせ目からは漏れる、製品にはバリができる。最悪です」
 もっとも問題になったのは、金型内部に仕込まれたエジェクタピン周りだった。射出成形機は金型を開いた後、製品をピンで外に押し出す仕組み。シリコーン樹脂はこのピンとガイド穴の間にまで流れ込む。おかげで1日に6回も成形機を止め、金型をメンテナンスしなければならない。しかも製品は焼きたてのクッキーのようにもろく、押し出すだけでポキポキと壊れていく。
 「仕方なく、見ていてイライラするくらいゆっくりとピンを動かして、慎重に取り出すしかありませんでした。歩留まりは90%近くありましたが、生産効率が悪すぎた」

ひらめいたアイデアは「振動」。しかし実用化するには免震、断熱というハードルが

 流れ込みを防ぐため、エジェクタピン部分の加工精度を極限まで高めた。それでも超音波発振装置は逆に熱に弱く、50度で壊れてしまう。この3段階の温度調節もまた、量産に向けての壁となった。「各部を断熱しすぎると振動が金型に伝わらない。そのバランスが難しかったですね」07年、ついに量産型が完成。シリコーンレンズの大量連続生産が可能となった。離型のスピードアップと、メンテナンスが数週間に1回に激減したことで、生産量は40%も向上した。そのすべてが、「振動」というアイデアひとつで解決したかのように見える。だが、それもチーム全員が知恵を絞っては消えていった、無数のアイデアとの格闘があればこそだと鈴石さんは言う。ブレイクスルーをもたらす一瞬のひらめきは、泥くさい努力を貫ける者にだけ「技術(ものづくり)の神」が与えてくれるご褒美なのだ。樹脂は侵入してくる。ピンの形を変えてみたが、加工に手間がかかりすぎた。そもそもピンを使う以上、破損の問題は解決しない。チームは1カ月以上にわたり、あらゆる方法を検討し、実験した。すべてダメ。もはや八方ふさがりとなったその時、鈴石さんに「技術の神」が降りてきたのである。
 「通勤途中に、ふとひらめいたんです。『振動を使って取り出せないか?』。それまで一度も考えたことのないアイデアでした」
 振動と言えば超音波。携帯のバイブ機能だって、超音波モーターの振動を利用している。超音波発振装置の上に金型をセットした実験装置をつくった。試してみると製品は振動によって、見事金型からはずれた……のだが、やっぱりポキポキと壊れた。
 「でも、とにかく振動が有効であることはわかった。この手法を追求し、ついに製品を無事取り出すことにも成功したんです」
 一方で超音波による振動が射出成形機全体に分散し、不具合を発生させることもわかった。試行錯誤の末、金型+超音波発振装置のユニットの保持部分を「免震構造」とすることで解決した。だが苦難はさらに続く。先述のとおり、シリコーン樹脂は原料の状態では25度の常温、金型に流し込む時には170度の高温に保つ必要がある。しかし、超音波発振装置は逆に熱に弱く、50度で壊れてしまう。この3段階の温度調節もまた、量産に向けての壁となった。
 「各部を断熱しすぎると振動が金型に伝わらない。そのバランスが難しかったですね」
 07年、ついに量産型が完成。シリコーンレンズの大量連続生産が可能となった。離型のスピードアップと、メンテナンスが数週間に1回に激減したことで、生産量は40%も向上した。そのすべてが、「振動」というアイデアひとつで解決したかのように見える。だが、それもチーム全員が知恵を絞っては消えていった、無数のアイデアとの格闘があればこそだと鈴石さんは言う。ブレイクスルーをもたらす一瞬のひらめきは、泥くさい努力を貫ける者にだけ「技術(ものづくり)の神」が与えてくれるご褒美なのだ。

マクセルファインテック(株)

設立
1963年5月
資本金
10億円
従業員数
324名(2009年12月現在)
ワンポイント
精密金型加工を基軸にした樹脂成形・金属プレス加工技術と、光学設計技術の融合で新たな技術開発に取り組んでいる

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右/常温でのシリコーン樹脂。糊のようにどろりとしている。左/金型に流し込む直前の、高温になった状態を再現したもの。サラダオイルのようになる経済産業大臣賞

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離型したシリコーン樹脂レンズ

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実験用の金型をセットした超音波発振装置