福岡県田川市
田川産業株式会社
行平 信義(57) 代表取締役
【その他の受賞メンバー(五十音順)】 尾池哲郎、乗政全成
【推薦者】森田昌嗣
水を使わない超高圧成形で高硬度を実現した
漆喰(しっくい)セラミックの開発
田川産業株式会社
石灰などを原料につくられる漆喰。その耐火性や耐久性ゆえに、何千年も前から世界中で建築仕上げ材として使用されてきた歴史を持ち、我が国ではお城や土蔵などの白い塗り壁でおなじみだ。しかし、漆喰の強度を最大限に高めることには、誰も成功していなかった。そのポテンシャルに気がついていなかった、というほうが正確かもしれない。問題は水だ。漆喰は水を混ぜて塗るというのが常識。ところが不可欠なはずの水が、実は強度発現には邪魔な存在だったのだ。同社の開発した「ライミックス」は、原料を超高圧で成形した漆喰セラミック。その強度、高級感ある風合いは、壁よりもむしろ床材として市場を獲得しつつある。シックハウス症候群の原因となる有害物質を吸着するなど、機能性建材としても注目される。
「これはいいものになるかも」。
その直感を信じたからこそ
数千年の思い込みを絶つことができた

切実なニーズと、ヒントを授けてくれた出会い。それが開発の端緒に

 「ここ田川は、黒いダイヤ(石炭)と、白いダイヤ(石灰)に恵まれた土地だったんですよ」と話す行平さんは、「白いダイヤ」にかかわる地元企業の3代目。現在は、我が国最大の漆喰メーカーのトップとして、その陣頭指揮を執る。
 漆喰と聞いても、若い世代にはピンとこないかもしれない。「城の壁が白いのは漆喰を使って仕上げているから」と言えば、理解してもらえるだろうか。石灰石(炭酸カルシウム)を高温で加熱してできる、消石灰(水酸化カルシウム)を固化材とする塗壁仕上げ材である。だが、市場は徐々に減少。
 「原因は漆喰にではなく、使う側の都合にありました。安く、簡単に。建築材料の世界でも、いろんな“インスタント製品”が幅を利かすようになったんですよ」
 しかしそんな風潮が、画期的な漆喰製品を生む遠因になったのだから、世の中わからない。92年頃のこと、あるハウスメーカーから「漆喰のボードができないか」と依頼を受ける。まさに、インスタント建材の横行によるシックハウス症候群が社会問題化していた時期だ。有害化学物質を使わず、むしろそれを吸着する効果のある漆喰に、白羽の矢が立ったのである。
 当然のことながら、ボードにするためには、硬く固める必要がある。まず、押し出し成形を試してみた。だがかたちにはなるものの、乾くとどうしても反りが出てしまう。その後もいろいろ試してみたが、足がかりさえつかめなかった。完全に煮詰まっていた行平さんが運命の出会いを果たすのは、その数年後のことだ。知人が「塩を分けてほしい」とやって来たのだ。
 「消石灰の製造工程で塩を使うのです。その知人は、鹸化法では絶対にできないといわれていた、塩を大量に含む塩石鹸をつくっていたのです。面白い人でね、専門家に『そんなのは無理だ』と言われたから余計にファイトを燃やして、実際につくってしまった。聞けば、材料に超高圧をかけて、無理やり押し固めたというのです」
 「固める」ことで頭を悩ませていた行平さんは、ダメもとでその方法を試してみた。するとどうだろう、今までなかった硬い漆喰になったのである。「これはいけるかも」と直感し、実験機の設置を決意する。97年のことだった。
 「ハウスメーカーのニーズとあの出会い、どちらが欠けていても、今はなかったでしょうね」
 しかし本当に大変だったのは、ここからだった。

 

「水」なし「熱」なし。常識を打破したら、最高強度の漆喰ができた

 ようやく道筋が見えたと喜んだのもつかの間、実験機を見積もると1億円もする。当時の同社に、それだけの研究開発投資を行う体力はなかった。泣く泣く量産性能を犠牲にして、半額以下の4000万円で妥協したのだが、圧力のかけすぎか「いきなり、ものすごい壊れ方をした」。修理して生産するも、量産効果を犠牲にしたツケで、1枚をかたちにするのに20分近くかかるありさま。これでは、いつまでたっても事業にできないと、今度は本格設備の導入に動く。
 「一番の問題は、“先立つもの”でした。銀行に頭を下げ、公的補助金を受ける申請もしました。通ったんですよ、補助金が。申請額の4分の1近くでしたけどね。受けるか否か即答を求められて、正直悩みました。もし失敗したら、80年続いた家業はおしまいですから。最後は、初めて固まった漆喰に触った時の直感を信じました」
 こうして、03年の春に超高圧プレス機を備えたプラントが完成、「ライミックス」の製造販売が始まった。直感は、かたちになった。その強度や高級感、自由に色や模様付けができる特性などが評価され、壁よりもむしろ床材として人気を博したのである。
 同製品は、色付けの顔料などを混合した消石灰に圧力をかけて固めるだけで、結合剤を加えたりしない。通常のセラミックのように焼成も必要ないから、製造時の環境負荷が少ないのもメリットだ。だが疑問は残る。サラサラの“粉” が、なぜ固まるのか?
 「実は、漆喰は二酸化炭素を取り入れて固化する物質なのです。水はむしろ邪魔。理論的にはわかっていたことなのですが、『漆喰は水を加えて塗るもの』という固定観念にずっととらわれてきた。だから何千年もの間、人類は床に耐えるような硬さに到達できなかったのです」
 出会いとひらめきと決断が生んだコロンブスの卵。あちらこちらでふ化を始めるのは、これからだ。

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