東京都品川区(熊本工場:熊本県南関町)
富士電機システムズ株式会社
高野 章弘(40) 制御システム本部 太陽電池統括部 熊本工場 開発部次長
【その他の受賞メンバー(五十音順)】 清藤真次、坂井亮平、榊原康史、下沢慎、反田真之、
塚原祐二、中原浩介、布野秀和、横山康弘
【推薦者】小長井誠
薄くて軽量で曲げられるフィルム型太陽電池の開発と、
その連続製造技術の実用化
富士電機システムズ株式会社
従来の太陽電池はガラス板を基板にした製品が主流だったが、同社はプラスチックフィルムを基板に用いることで、薄くて軽量で、曲げられるフィルム型太陽電池の開発に成功した。これにより、太陽光発電装置の設置の自由度を格段に広げた。さらに製造法に関しても、カメラのフィルム巻き取り機構のように、材料のフィルムをロールから引き出し、シリコン層を製膜し、ロールに巻き取るという「ステッピングロール方式」のプロセスを開発。小規模な工場でも低コストで大量生産が可能になり、大幅なコストダウンが期待できるようになった。太陽光発電システムは無尽蔵な太陽エネルギーを利用し、二酸化炭素を排出しないので、温暖化防止の切り札として期待されているが、その普及を加速させる画期的な技術である。
フィルム型太陽電池が
大量生産できれば、
地球を救えるかもしれない

重くて厚いガラスから軽くて薄いプラスチックへ

 太陽光発電システムは、二酸化炭素を排出する火力発電や、危険な放射性物質が出る原子力発電と異なり、無尽蔵な太陽エネルギーを利用し、何も排出しない極めてクリーンな発電システムである。その特性から、地球温暖化防止と省資源を実現する切り札のひとつとして、期待されてきた。近年、太陽電池の市場は急速に伸び始めているとはいえ、もともとのパイが小さいので普及率はまだ決して高くはない。
 「太陽電池の普及を阻んできたのは高価格であることが原因。また、ガラス基板の製品は重量が重いこともネックになっています」
 一般家庭用の太陽光発電システムは最低でも200万円以上かかり、発電(売電)でもとを取るのに10~20年かかるのが普通である。そこで富士電機システムズでは、10年以上前から重いガラス基板ではなく、軽いプラスチックのフィルムを基板に使う研究に取り組んできた。94年に開発チームのリーダーに抜擢されたのは、当時、大学院の博士課程を修了したばかりで27歳だった高野さんだった。
 「その当時、弊社にはガラスを基板として扱うノウハウはいくらでもありましたが、プラスチックフィルムを扱った経験はまったくなく、ゼロからのスタートでした。ガラスと違ってプラスチックは熱に弱いが、太陽電池のシリコン層をフィルム上に製膜するには温度を300℃まで上げる必要がある。温度変化で伸び縮みするので、しわができたりシリコン層がはがれたりして、一筋縄でいくものではなかったのです」
 開発チームに与えられたテーマは、プラスチックフィルム基板の太陽電池開発だけではない。同時に低コストの製造方法も求められた。材料として納品されたフィルムのロールをセットしたら、そこからフィルムを引き出してシリコン層を製膜し、電極を張り付け、またロールに巻き取って製品として出荷する。カメラのフィルムのコマ送りのような機構で、可能な限りプロセスを減らし、製造コストを下げる必要もあった。
 「どこがブレークスルーかと問われると、答えるのは難しいですね。プラスチックフィルムの扱い方について、十数年かかってトライアル&エラーを繰り返し、そこから得られた多数のノウハウを集積させたと言うほかないのです」

 

劇的な軽量化と薄型化を実現。製造コスト削減も

 開発に着手してから11年後の05年、フィルム型太陽電池の開発が完了し、製造法も確立した。でき上がった製品は、厚さわずか1㎜、重量は一般的なガラス基板製品の約10分の1と、劇的に軽量化・薄型化された。さらにフィルム基板にしたことで、最小半径1cmまで曲げられるようになった。これにより、これまで建築強度の問題や屋根の形状などが原因で太陽電池パネルを設置できなかった場所にでも、取り付けられるようになったのである。翌06年には、熊本県に新開発のステッピングロール方式を採用した製造工場を建設し、量産をスタートした。
 ほかの太陽電池メーカーのほとんどは単結晶や多結晶のシリコンを使った太陽電池を製造しているが、同社は薄膜のアモルファスシリコン(非結晶シリコン)を採用している。単結晶シリコンに比べると発電効率は若干低いが、原料は地球上に無尽蔵といえるほどあって価格が安い。夏場の高温時でも発電効率が下がらないのが特徴で、年間を通した発電量では、発電効率ほどの差がつかないという。大量生産するうえでネックになるものは何もない。現状ではまだ生産規模が小さいため、ガラス製品と同程度の価格にとどまっているが、大量生産が可能になれば価格は今より下がるはずである。
 「国の政策では、2030年までに太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー発電で、総電力需要の1割をまかなうことが目標とされています。それには日本の国土の0.1%の面積で太陽発電を行うだけでいいのです」
 最近ではドイツを始めとする欧州国からの需要が急増しており、09年までに生産能力を3倍に増強することを決定したばかり。同社のフィルム型太陽電池の普及が、人類を地球温暖化や異常気象から救う日がやって来るかもしれない。

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