岐阜県関市
株式会社ナガセインテグレックス
山口 政男(63) 専務取締役 工場長
【その他の受賞メンバー(五十音順)】 板津武志、宇野剛史、木村吉行、郷泰幸、長瀬幸泰、
野口典孝
【推薦者】(財)ソフトピアジャパン
研削盤による加工だけで大型望遠鏡用の鏡を
高速に仕上げる超精密工作機械を開発・実用化
株式会社ナガセインテグレックス
天文台の大型望遠鏡に使われる集光レンズの鏡面加工には、従来は砥粒で磨くラッピングという加工法が用いられてきたが、加工には時間がかかり、ものによっては1年も要した。しかし、同社が超高精度な位置制御を行いながら砥石で削る研削盤を開発したことで、複雑な非曲面レンズの超高精度な研削加工が可能になり、製作期間は1カ月程度に短縮された。ハワイのすばる望遠鏡にはシュミットレンズと呼ばれる赤外線観測用のレンズが組み込まれているが、このレンズも同社の工作機械だけで研削加工されたもので、形状誤差は200nm(ナノメートル)、面粗さは50nmに抑えられている。最近では日本の名だたる精密機器、電子機器メーカーで同社の工作機械が使われ、精巧で故障が少ないという日本製品の評判を支えている。
小さなことでも世界一を目指す。
その積み重ねから
世界に類のない工作機械が生まれた

世界一の研削盤を目指してきたら、望遠鏡のレンズ研削盤ができた

 「自分たちが天文台の望遠鏡レンズをつくるなんて、想像もしていなかったし、今までそれを目指してきたわけでもないんです」
 山口さんは開口一番、こんなことを言った。
 天文台に設置される望遠鏡のレンズの鏡面加工には極めて高い精度が要求される。従来は砥粒と呼ばれる粉を使って磨くラッピング工法で精度を出していたが、加工には1年近くかかった。ところが、同社の超高精度な研削盤(砥石で削る工作機械)で加工したところ、ラッピングと同等の精度のレンズが1カ月でできてしまったのだ。常識を超える精度の研削盤を開発したら、レンズまでできてしまった。そういう意味である。
 では、なぜそのような高精度の研削盤を製造できたのか。その謎に対する解答は、精度を追い続けてきた同社の歴史そのものにある。山口さんが高校の夜間部を卒業して長瀬鉄工所(同社の前身)に入社したのは69年。当時はドイツなどの欧州メーカーの工作機械が世界最高の精度を誇っていた時代だが、同社は「性能には目をつぶるので、とにかく安い機械が欲しい」という金型の町工場向けに工作機械を製造販売していた。
 そのことに山口さんは特に疑問を感じていなかったが、機械の設計・導入のためアメリカに1年間駐在した経験が転機になった。
 「工場の設計から機械の販売、さらには普段の生活レベルまで、何もかも日本より進んでいたことに大きなショックを受けたんです」
 日米の格差に衝撃を受けて、山口さんの中で何かが目覚めた。帰国後しばらくして、社長の二男の長瀬幸泰氏(現社長)が大学で機械工学を学んで入社してきた。
 「私は、優秀な成績で有名校を卒業してきた彼に、もっと大きな舞台で活躍することを勧めたんですが、父親がつくった会社を立派にする仕事がしたいというので、それなら『後継ぎで楽しようなんて思うな。どうせやるなら一緒に世界一を目指そう』と」
 誰もやらないこと、小さなことなら中小企業でも世界一になれる。同社の挑戦はここから始まった。

 

本気で世界トップになれると、まずは自分が信じること

 その後、山口さんは自分の学力不足を痛切に感じて、岐阜大学の夜間部に入学。機械工学を学びながら教授陣に人脈を築き、同級生に「一緒に世界一を目指そう」と声をかけた。今回の受賞メンバーの中には、山口さんに誘われて入社した同級生も含まれている。
 「精密加工学会などには必ず社員を連れて足を運び、問題解決の糸口になりそうな研究発表があれば、その先生の研究室に伺って教えを請うた。多くの先生方が快く指導してくださり、そのご指導がなければ今のウチはなかったと思います。感謝に堪えません」
 工作機械の精度が落ちる原因は、それこそ無数にある。機械自身から発生する振動や機械のたわみ、温度変化による膨張・伸縮。山口さんらは、回転する砥石の振動を抑えるため、砥石を保持する部品の外周部に水を溜めるポケットをつくり、外部から水を射出して釣り合いを取る自動バランス装置を開発し、世界特許を取得。また、工作機械のテーブルの移動機構にリニアモーターを活用。金属接触やガタがない、寿命知らずの運動機構を構築し、工作機械のレベルでは世界的に導入例はほとんどない機械として実用化した。
 30年にわたって精度が落ちる原因を一つ一つ潰していった結果、誤差をナノメートル(10億分の1m)単位に抑えた究極の超高精度工作機械が誕生したのだ。
 「2000年頃に京大の天文学の舞原先生から数式とガラスの塊を渡されて、『この数式どおりに削ってよ』と頼まれまして。削ったところ、望遠鏡で使えるレベルのものができてしまった」

 それ以来、レンズ加工の相談が次々に入り、07年には広島天文台の望遠鏡に装着された世界初のセラミックレンズの研削加工を手がけた。現在は、12年完成予定の世界初・30m級鏡の製作研究が始まっている。同社の工場の一角に建設されたレンズ加工工場には、京都大学の教授陣が集まり、レンズ加工の研究に余念がない。
 「何にもないところから、世界一になろうとバカみたいに言い続け、本気で信じてやり続けてきた。それが大事。自分が信じなければ、誰も信じてはくれません」
 まずは信じること、である。

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