大阪市中央区(総合技術研究所:茨城県神栖市)
住友金属工業株式会社
加藤 徹(42) 総合技術研究所 製鋼研究開発部 主任研究員
【その他の受賞メンバー(五十音順)】●住友金属工業/馬場宣彰、山中章裕、
●住友金属小倉/伊藤義起
【推薦者】(社)日本鉄鋼連盟
ナノサイズの微細粒子制御で、
高機能厚板の連続鋳造を革新
住友金属工業株式会社
建築や産業分野などになくてはならない厚鋼板。その母材であるスラブは、溶かした鉄を鋳型に流し込み、そこからローラーではさまれた「道」を通しながら徐々に冷やす「連続鋳造法」によって生産されるのが普通だ。しかし、鋼種によってはこの過程でスラブの表面にひび割れが生じるため、これを削り取る工程が必要だった。同社の総合技術研究所製鋼研究開発部は、不可避だとされてきたこのネックの解消に挑戦。スラブを急速に冷やした後に再加熱するSSC(Surface Structure Control Cooling)法を開発し、ひび割れの問題を解決した。スラブの検査、手入れの工程が丸ごと省けるため、溶接用の高品質厚板のリードタイムは3、4日も短縮。効率生産に大いに貢献している。
「それは無理」が定説。覆したのは、
「研究のための研究」にしない執念と、
綿密な実験の繰り返しだった

「避けられない現象」。その常識に挑戦し研究は始まった

 大きな「鍋」の中で真っ赤に煮えたぎる鉄。クレーンにつるされ、次々と運ばれる厚板。時折響くごう音、そして熱気——製鉄所の内部には、ほかのどんな大規模工場とも違う勇壮な景色が広がっている。この場所で「ナノサイズ」の研究成果が息づいているとは、ちょっと信じられない思いだ。
 製鉄所では、まず高炉で鉄鉱石とコークスから銑鉄(溶けた鉄)をつくり、製鋼工場で炭素分を除いた溶鋼にし、鋳造工程を経て母材を生産する。これをさらに圧延して、様々な鋼板にするのである。今回の現場は、その中の鋳造工程に当たる。
 鋳型に流し込まれた溶鋼は、その底の部分から押し出され、平べったい直方体のスラブとなってローラーの間を進み、徐々に冷やされていく。先にはトーチカッター(ガス切断機)が設置されていて、ここでようかん型に切り出される。これが「連続鋳造法」の概略である。この方式の場合、生産効率を上げるため、鋳型から下に向かって垂直に流れ出た熱いスラブを徐徐に曲げ、さらにはのばして水平方向にカッターまで進行させるのだが、ここに問題が生じた。
 「近年需要が増加傾向にある建設、造船などに使われる低合金鋼の場合、この“曲げ”と、そこからの“矯正”が原因で、スラブの表面に横ひび割れが多発するのです。目を凝らさないと見つけられないほど微細なものなのですが、深さは5~10㎜に達することもあって、圧延すると大きく広がってしまう」
 このデメリットを何とかできないか、以前から多くの研究が行われてきたが、切り札はなし。結局、スラブの非破壊検査を行い、傷が見つかればその部分を取り除くしかなかったのが現実だ。
 「横ひび割れは、800℃近くになると発生する『高温脆化』という現象によって引き起こされることはわかっていました。だから温度管理などで対応していたのですが、ひび割れを完全になくすのは難しいし、生産性の妨げになる。だったら、その現象そのものを起こらないようにはできないかと発想したのです。無理、というのが業界、学会の定説だったのですが」
 新しい方向性を目指した研究がスタートしたのは、90年代初頭のことだった。

 

分厚い鉄の板。その問題点を解消したナノレベルの技術

 当然のことながら、「研究のための研究」にとどまることは許されない。
 「やる以上は、既存設備で使えて、鋳造のスピードをそがないものでなければ意味がない。いろんな鋼種に応用可能で、もちろんひび割れゼロ。スラブは幅2m以上、厚さ30㎝ぐらいで、全長は100mほどもありますから、けっこう高いハードルに思えました。『必ずできる』という確信があったわけではないのですよ」
 94年からラボサイズの研究を開始、96年からは研究所に設備を構えて試験を始めるが、やはり、なかなか成果らしきものは見えてこない。第一、実験機といえどもそれなりに大がかりなものである。
 「あれもこれも、いろんなことを試してみることはできません。週1回、綿密な実験計画を立てて、それに従ってやってみる。『今週もダメだったか』。この連続でしたね」
 光明を見いだしたのも「偶然に近かった」と打ち明ける。
 「ある時、部分的だったのですが『これいいね』っていうものができたのですよ。今度は、どういう条件でそれができたのかを追求していきました」
 たどり着いたのは、鋳型から流れ出した直後の1200℃近い溶鋼をミストスプレーで一気に900℃以下に冷やした後、再び加熱するという方法。これにより、ひび割れの問題は完全にクリアされたのである。
 さて、結局のところナノの世界で何が起こっていたのだろう?
 「簡単に言うと、この方法を取ることによって、スラブの全面にナノサイズの粒子がちりばめられた被膜ができることがわかりました。この部分は温度にかかわらず『脆化』しない。これが“カバー”のような役割を果たすために、ひび割れることがなくなったのです」
 この技術は、02年から同社鹿島製鉄所・第2連鋳機で本格運用されている。加藤さんたちは「厚板以外にも応用できるのではないか」と、研究を継続中だ。

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