自動車のエンジンやトランスミッションなどを構成するアルミダイカスト部品の製法は、「たい焼き」のつくり方に似ている。高温で溶かしたアルミを金型に流し込み、高圧をかけて冷やし固めるのである。
かつてアルミダイカスト業界には“常識”があった。アルミを流し込んだ後にかける圧力は70〜100MPa にしないと良い製品がつくれないとされ、何十年にもわたってどこの会社も同じやり方だった。もしそれより圧力を下げると、製品表面に「湯境」と呼ばれる線上の亀裂ができ、内部に欠陥が発生し不良品になったりするからだ。その常識に挑戦したのが大沢さんである。
「きっかけになったのは、83年にデミング賞(日本科学技術連盟の表彰制度)を受賞したこと。弊社の品質管理の高さを評価していただいたわけですが、同時にものづくり自体は弱いという指摘を受けたのです」 |
そこで同社では5年ごとにビジョンを掲げ、ものづくりの実力を高める挑戦を始めた。95年から始まった「V2000」計画では、すべてのコストを2分の1にする、”コストハーフ“を掲げた。背景にあったのは競合他社の中国進出で、価格競争力を高める必要があった。しかし、コストを半減するのは並大抵のことではない。小手先の方法ではダメで、製造法を根本から見直すことが求められた。開発テーマとして挙げられた約20の新技術のうち、大沢さんに課せられたのは「鋳造圧力の低減」だった。
「圧力を下げることには先人たちが何度も挑戦している。しかし、うまくいかなかったから何十年もそのままになってきたんです。業界の中には、“無駄だからやめとけ”とからかう人もいました」 |
圧力を下げることのメリットには、「非常に高価な金型が長持ちする」、「圧力をかける機械を小型で安価なものに替えられる」、「バリ(つなぎ目に流れ込んだ余分)が発生しにくくなってバリ取り作業を減らせる」など、いくつも考えられた。
「まず、圧力が低いとなぜ湯境ができるのかを突き止める必要があった。コンピュータのシミュレーションではできないものが、現物にはできる。現場主義でやるほかない。実験を繰り返してようやく判明したのは、金型にアルミを流し込む時に、予想以上に早く温度低下が起きていたことで、破断チル層という部分的に凝固したものができ、アルミ溶湯の流れを阻害していたのです」
問題の発生原因がわかれば、解決法は見えてくる。アルミの湯温が下がらないようにすればいい。湯温を650℃から670℃に上げ、温度が下がらないうちに一気に流し込むために、注湯から金型内への充てん完了までの時間を10・7秒から5・4秒に短縮し、圧力を半分の46MPaに設定した。気泡をつ |
くらないようにゆっくり流し込むのも業界では常識だったが、倍のスピードにしたのだ。その代わり、ガス抜きを大きくして空気を排出しやすくした。低圧だからそれが可能になったわけで、ここでもひとつ常識を打ち破ったのである。
低圧化が実現すると、先に挙げた以外にも様々なメリットがあることがわかった。製造スピードは格段に速まり、圧力をかけた時にアルミの湯が飛び散ることが減って、作業者の安全性が高まった。何より、本当にコストを約半分に削減した。
「私ひとりの力ではなく、全員がコストを半分にすることに本気で取り組んだおかげ。業界の常識とされる技術の中にも、ブレークスルーの芽が残されている。やりたいようにやらせてもらえた半面、ギブアップを許してもらえなかったのも事実(笑)」
まさしく、アルミダイカスト製品の製造法に革命を起こしたのである。 |