monodzukuri 第1回「ものづくり日本大賞」 HOMEEnglish
受賞者たちの熱きドキュメント
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世界の先端をつくるプロフェッショナルたち伝統を受け継ぎ進化するプロフェッショナルたち
愛知県 エジェクタ エジェクタサイクル 冷凍機
愛知県刈谷市
(株)デンソー
武内裕嗣(41歳)
熱システム開発部室長 愛知県刈谷市
(株)デンソー
武内裕嗣(41歳)
熱システム開発部室長
世界初のエジェクタサイクルの
開発・実用化
エアコンや冷凍機の構造は、圧縮・液化した冷媒を、室内機の内部で膨張・気化させることで、空気から熱を奪って冷やし、その気化した冷媒を外部で圧縮・液化させて熱を排出するという仕組み。この冷媒の循環をコンプレッサー(圧縮機)が行う。冷媒を膨張するのは膨張弁の役割だが、この時に管の内部では渦が発生し、運動エネルギーが無駄に失われている。そこで、渦を抑えて、その運動エネルギーをコンプレッサーの動力低減に利用するのがエジェクタサイクルの原理。冷凍機や冷蔵庫、エアコンなどに搭載すると、エネルギー効率を劇的に向上させる効果がある。
発表した時、誰もが疑った世界初の
エジェクタサイクルの実用化に成功したのは、あきらめの悪い性格のおかげ
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Company Profile
(株)デンソー
http://www.denso.co.jp/ja/
1949年設立。トヨタ自動車から分離・独立し、自動車の電装部品を製造するメーカーとして日本電装(96年にデンソーに社名変更)は誕生した。日本のモータリゼーションと共に成長拡大し、電気・電子部品だけでなく、エンジンの基幹部品やエアコン、ラジエータなどの熱交換機器を生産。現在ではカーナビなどITS関連の事業も展開し、環境技術の開発にも力を入れている。
30年前の論文から発見したエジェクタサイクルの真実
 当時入社4年目で、26歳だった武内さんに、「路線バス向けエアコンのエネルギー効率を25%向上せよ」という開発目標が与えられたのは、91年のこと。自動車用エアコンでは、コンプレッサー(空気圧縮機)をエンジンで回すため、エンジンがアイドリング状態だと冷房効果が落ちる。それを改善せよという。しかし25%も効率を上げろとは……とんでもない目標である。
「根本的に何かを変えないと無理な数字です。そこで、過去の文献を読みあさったところ、75年にアメリカで発表された論文に『エジェクタサイクル』という機構を見つけ、これだ!と直感したのです」
 エアコンという装置は、冷媒を膨張・気化させて熱を奪い(室内)、圧縮・液化する時に熱を排出する(室外)構造で、その循環をコンプレッサーが担っている。従来のシステムでは、膨張弁で冷媒を膨張する時に渦が発生してしまうために、多くの運動エネルギーが失われていた。エジェクタサイクルは渦の発生を抑えることで、失われるはずだった運動エネルギーを利用し、コンプレッサーの働きを助ける機構である。つまりは、ターボチャージャーとよく似たシステムだ。
「いいもの見つけたと思って試作したら、効率25%アップどころか30%ダウン(笑)。何をどうやってもうまくいかない」
 1年ほどして別の開発テーマを与えられたため、エジェクタサイクルの研究は豊橋科学技術大学に委託することになった。しかし、常に頭の片隅から離れなかった。武内さんはエジェクタサイクルの虜になっていたのである。
 大学での研究がなかなか進まない中、武内さんは「自分でやるしかない」と、上司から大学との共同研究の許可を得て、96年から博士課程に週2回、3年間通った。
「液体、あるいは気体のどちらかの単相流であれば話は簡単なのですが、エジェクタ内を通る冷媒は液体と気体の二相流で、その動きは複雑極まりない。工学的な手法を捨て、物理学の基礎に立ち戻る必要があった。理論をもとにコンピュータによるシミュレーションを延々と繰り返し、3年かかってようやく設計図が完成しました」
 最終的なエジェクタの形状は、開発を始めた当初に想像していたものとはまるで違っていた。試作と実験という手法では、とうていたどり着けなかった形状である。
エジェクタサイクルはエアコンなどのエネルギー効率を50%も改善する
エジェクタサイクルはエアコンなどのエネルギー効率を50%も改善する
エネルギー効率を50%も改善。驚異的な性能を実現した
 しかし、この段階では設計図があるだけである。設計上、エジェクタ内で冷媒のスピードは、数十pのパイプの中で歩く速度から超音速に達し、自動車の速度にまで落ちることになる。製品化には髪の毛より細い金属管を自在に加工する超精密技術が必要だ。当初は「つくれない」と製造担当者に断られたが粘り強く議論を重ねた。同社にはそれを可能にする技術があった。
 99年から武内さんはひとりで量産技術の開発を再開。徐々にとてつもない性能の片鱗が見えてきた。02年にプロジェクトメンバーは増強され、実用化へ一気に走り出す。
 03年6月、空調機や冷凍機の業界関係者や研究者は、同社の発表に驚愕した。エジェクタサイクルの実用化に世界で初めて成功したのである。30年も前のアイデアが実用化されなかったのは、誰もその論文を発見しなかったからではなく、実は多くの研究者が挑戦して失敗していたからだった。
「成果を発表した時はずいぶん疑われましたよ(笑)。エジェクタサイクルに挑戦された開発者に話を聞くと、やはり皆さん『30%効率が落ちた』とおっしゃってました」
 そこで打ち切らず、足かけ10年にわたって追い続けてきた執念が実を結んだ。「あきらめの悪い性格なんですよ」と武内さんは言う。エジェクタサイクルを搭載した冷凍庫は、冷凍能力が25%向上し、コンプレッサーの動力も33%低減。エネルギー効率(消費電力当たりの加熱・冷却能力)は50%も向上した。これは驚異的な数字である。
 この功績により発明協会の21世紀発明奨励賞のほか、12に上る賞を受賞。エジェクタサイクルは、自然冷媒ヒートポンプ式給湯機「エコキュート」に採用されたほか、今後、冷凍システムだけでなくエアコンや冷蔵庫などにも搭載され、省エネルギーに大きく貢献するはずである。
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その他の受賞メンバー(五十音順)
池本徹、尾形豪太、川村進、榊原誠、中西幸則、西嶋春幸、真木孝昌、松永久嗣、水鳥和典
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