monodzukuri 第1回「ものづくり日本大賞」 HOMEEnglish
受賞者たちの熱きドキュメント
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世界の先端をつくるプロフェッショナルたち伝統を受け継ぎ進化するプロフェッショナルたち
愛知県 真空成形 通気性 メッキ
愛知県江南市
江南特殊産業(株)
野田泰義(64歳)
代表取締役社長 愛知県江南市
江南特殊産業(株)
野田泰義(64歳)
代表取締役社長
樹脂パーツの真空成形を可能にした
世界初の技術・ポーラス電鋳
原型の形状や模様の転写性において、抜きん出た精密さを発揮する電気鋳造金型。ポーラス電鋳はこの特性を生かしつつ、メッキを施す過程で0.1〜0.2oという微細な通気孔を形成することで、樹脂パーツの凹引き真空成形を可能にした。穴の大きさや数(通常1cu当たり3〜5個)は、メッキ液の成分や電流密度、液温の調整で、穴の位置は、原型に導電性の異なる素材を塗布することでコントロールできる。ただし詳細は非公開。ポーラス電鋳はその応用技術を含めて、国内外で数々の特許を取得。高い品質を実現しながら、生産性やコストパフォーマンスにも優れた手法として、世界各国の自動車メーカーで内外装用樹脂パーツの成形に利用されている。
取引先に依頼されてやったんじゃない。
いつも自分たちで考えて、つくって、
「いいでしょうっ!!」って提案してきた
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Company Profile
江南特殊産業(株)
http://www.ktx.co.jp/goaisatu1.html
1965年設立。当初は仏壇の金具や飾りの電鋳金型を製造。82年、ポーラス電鋳の開発に成功。以後も様々な電鋳金型技術を生み出し、総合金型・成形機メーカーとしての地位を築いた。その業務は職人芸ともいうべき原型へのシボ張りや金型製造から、CAD/CAMによる設計、クリーンルーム内での超精密加工や検査までと実に幅広い。
ポーラス電鋳金型による真空成形のデモンストレーション。まず、ミニ成形機に金型をセット。次に樹脂シートを乗せて加熱。そして一気に空気を抜けば、このとおり!!
ポーラス電鋳金型による真空成形のデモンストレーション。まず、ミニ成形機に金型をセット。次に樹脂シートを乗せて加熱。
そして一気に空気を抜けば、このとおり!!
ゴミ箱に捨てた“ガサ電鋳”が、
世界初の大発明になろうとは
 デンチュー。それは電気鋳造の略。原型に3〜5o厚のニッケルメッキを施し、卵の殻みたいにパカッと外せば、樹脂成形用の金型のでき上がり。自動車のダッシュボードやドアトリム(内張り)、バンパーなど樹脂パーツのほとんどが、この電鋳金型でつくられる。特にシボ(絞)と呼ばれる革模様や縫い目を、原型からそっくりそのまま写し取れるのは電鋳ならでは。
「ただ、この特徴を生かすには加熱した金型に樹脂パウダーをまき、溶かして成形するという、面倒なスラッシュ成形法しかなかった。しかし生産性を考えると真空成形にしたい。金型の上に温めて軟らかくした樹脂シートを乗せ、金型とシートの間の空気を一気に抜いて成形する方法です。ところがシボまで再現するには、電鋳金型は凹型でなければいけません。その上にシートを乗せるとフタをするようなもので、空気がうまく抜けないんです」
 と、電鋳一筋40年の野田さん。ここで話は二十数年前にさかのぼる。ある日、野田さんは工場で、社員が3、4oの穴の開いた失敗作の電鋳を捨てるのを見た。
「メッキの電解液の中で泡が発生すると、泡の付いた部分にはメッキが乗らず、表面がガサガサになる。“ガサ電鋳”といって、まったくの不良品なんです」
 だが、野田さんにはピンとくるものがあった。以前、欧州視察で見た、エポキシ樹脂製の小さな穴の開いた型のことを思い出したのだ。その社員にゴミ箱に捨てたガサ電鋳を持ってこさせ、「もう一回、同じものつくってみてくれんかな」と頼んだ。すると同じものができた。
「再現できるのなら、これは使い道があるぞと思いました。そこでさらに『この穴、0・1oにまでにならんか。1年がかりでもいいから』って言ったんです。彼は普段の仕事の傍ら、研究を始めました。後で聞いたら、自宅にテスト用の小さな桶をつくって夜も実験したそうです」
 1年後、社員は見事に100μm、つまり0・1oの穴がいくつも開いた電鋳金型を完成させた。明かりに透かすと無数の小さな星が輝いた。しかもその穴は、裏側で釣り鐘状に広がっている。これなら凹引きの真空成形でも、空気がきれいに抜けて金型と樹脂シートがぴったり密着し、シボも精密に再現できる。さっそくサンプルをつくり、新しもの好きっぽいホンダに持ち込んだ。ところが反応は、けんもほろろ。彼らもまた、エポキシ樹脂製の通気性を持つ型を完成させていたのである。だが、野田さんはめげなかった。3カ月後、今度はドアトリム1枚分を電鋳金型で成形し、再びホンダに持ち込んだ。反応は以前とは正反対。まさにその頃、例の樹脂製の型の耐久性のなさが大問題になっていたのだ。
「こっちはそんなこと先刻お見通しです。そこでドアトリムを見せると、人がどっと集まってきた。丈夫な金型でつくれるうえ、表面模様も素晴らしい。これならというので、今度は全面的にバックアップしてくれることになったんです」
社長自らパチンコ店の椅子洗い。それでも「会社の灯は消すな!!」
「小穴の多い」「多孔性の」という意味で、「ポーラス(porous)電鋳」と名付けられたこの世界初の技術は、その後国内自動車メーカー各社に採用され、品質と生産性の向上に大いに寄与することに。しかも、面倒なスラッシュ成形法に比べて製造コストで2割減、製造に必要なエネルギーはなんと約12分の1。さらにリサイクルに適した素材が使えるうえ、その成形品は3割も軽い。結果、車の燃費からリサイクル効率まで向上させてしまったのだ。今や同社は欧米でも、「KTX」の名で知られる金型と成形機の総合メーカーとなっている。
「ものづくりで大切なことは、とにかく早くかたちにすること、そしてあきらめずに粘り強くやることです。うちが一番苦しかったのは、73年のオイルショックの時でした。電鋳の仕事はなく、パチンコ屋の椅子洗いで日銭を稼ぐ毎日。でも、ひとりの社員だけは−今はもう、退職してしまいましたが−『電鋳の灯を消すわけにはいかん。あんたは電鋳のことだけをやっとってくれ』と、会社に残していたんです」
 その元社員こそ後にポーラス電鋳をモノにする、あの技術者だったのである。
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その他の受賞メンバー(五十音順)
宇佐見康夫、大山寛治
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