母に楽をさせたい。そんな一途な思いが、画期的な発明を生み出す原動力になることがある。トヨタ・グループの祖、豊田佐吉翁が環状織機を発明したように、池田さんが開発した「無動力搬送台車ドリームキャリー」も、まさにそこが原点だった。
「父が病気がちだったもので、おふくろが農業から家のことまで一切合切をやってたんですね。農業用機械を買うお金はありませんでしたし。で、思ったのが、何かこう“からくり”でね、農作業や仕事を楽にしてやることはできないもんかなぁと」
結局、実現はできなかったけれど、と残念そうな表情を見せる池田さん。しかしその思いは、21世紀になって、池田流「モノ創り」として開花することになる。少年時代の池田さんを虜にしたからくり。それは、お盆に載せたお茶をカタカタとかわいらしく運んでくる、茶運び人形だった。
「江戸時代のものですが、これが今の機械のもとになってるといいますかね。電気モーターなんて使ってないですから、無動力の思想なんです。 |
それと、ながらの思想。たと
えば、豊田佐吉翁の織機。ひとつのモーターの動きを利用しながら、カムと組み合わせて布を織るシャトルを縦横無尽に動かす。〜しながら〜するという、つまり、何かひとつの動きを利用しながら、次から次へとほかの動きをさせていく。その動きは多ければ多いほどいいわけです」
しかし、こんな池田さんの“無動力・ナガラ思想”が、最初から会社に受け入れられたわけではない。池田さんは生産ラインの現場で25年近く、環境改善の工夫、努力と共に研究も細々と積み重ねていた。
「設備が故障するでしょ。そうすると何にも手が出せない。それが悔しくてね。じゃあ、自分たちでつくっちゃおうと。そうすりゃラインで働く人たちだけで運営ができる。自分の城は自分で守ろうと」
現同社社長が、池田さんの取り組みに着目し、設備投資の抑制とスペース・コスト2分の1を目標に、会社の事業として「ものづくりセンター」をつくったのは03年。 |