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「日本一の孝行息子」。今回の受賞を報じた地元経済誌は、こう見出しを付けた。
「物心ついた時には、すでに父親の姿はなかった」という中本さんは、文字どおり、母の手ひとつで育てられる。大学で生産工学を学んだ後、あえて畑違いの証券会社に就職するが、これは「別の世界も見ておきたかった」から。というのも、いつかは家業である縫製業を継ごうと、心に決めていたからだ。
「子どもの頃から、この仕事に就くよう、母に洗脳されて育ちましたからね(笑)」
証券マンを1年、京都の着物関係の会社で1年、そして29歳の時、故郷大分に戻り、母宣子さんが社長を務める縫製会社「フナイコーポレーション」に就職する。同社は、1級和裁士の資格を持つ宣子さんがおよそ40年前に設立。現在30名ほどの体制で、反物から着物を仕立てている。 |
着物は、おおまかに言って裁断、ヘラ付け、縫いという工程を経てつくられる。このうち、特に熟練の技を要求されるのが、実は裁断。でき上がりを想像しながら反物に印を付け、ハサミを入れていく作業だ。左右の袖の柄がアンバランスといったミスは許されないから、作業は慎重の上にも慎重を期さねばならない。資格を持つベテランでも、両袖、身頃、襟など8つのパーツを切り出すのに優に4時間はかかる。あまりのキツさに、職人さんが次々に辞めてしまうほどだという。
縫製工場を遊び場に育ち、小学5年生の時にはすでにプログラムを組むことができたほどコンピュータに通じていた「孝行息子」が考えたのは、IT(情報技術)を使ってこの工程をもっと楽にできないかということ。そうした発想から生まれたのが、着物仕立てシステム、愛称「タチ(裁ち)ロボット」なのである。 |
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オペレーターが入力すれば、あとはロボット任せ。
広げた反物の上をまたいで進みながら、正確に印を付けていく |
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このシステム、顧客の身長や腕の長さといったパーソナルデータを入力すれば、パソコンの画面上で柄合わせなどの作業ができる。約15mの長さの台に広げられた反物の上をまたぐように進むロボットが、その入力内容どおりに裁断・縫いの印を付けていく仕組みだ。あとは人間がそれに従って反物を切り、縫えばよい。
その効果は絶大で、「タチロボット」を導入した同社は、4時間かかっていた裁断作業を40分にまで短縮することに成功。呉服店で朝注文すれば、夕方には着物になって届くという、考えられない離れ業を可能にした。人の勘に頼ることによるミスはなくなり、高い品質の着物を安定的につくれることも大きなメリットだ。
システムの頭脳といえるソフト。その開発は、まさに母子二人三脚で取り組んできた賜物である。
「着物の“風合い”などに関しては、母の1級和裁士としてのノウハウを存分に取り込んで、練り上げました。でも、僕は着物のことをほとんど知らないし、母は母で、コンピュータやメカがわからない。ふたりがシステムについて話して |
るのを周りが見たら、ほとんどケンカでしょうね(笑)」 「ここは、もうちょっとずらせないの?」「ちょっとって、何oだよ!」。こんなやりとりの末に、縫製業の現場を変える画期的なシステムは、日の目を見たのである。
同製品の開発、販売を主な目的に、中本さんが04年に設立したオープン アイ システムズは、すでに同業他社へのソフト販売も手がけている。
「最盛期に比べれば縮小したとはいえ、市場は6000億円。最近は“和もの”を見直す動きも目立っていますし、着物が盛り返す可能性は十分あると僕は思っています。つくり手にとってもっとも熟練や時間を必要とし、リスクも大きい作業を合理化するのが、このシステム。これを普及させて、業界全体の活性化のお役に立てたら、こんなに嬉しいことはありません」
このロボットを稼働させるためには、15m以上の空間が必要で、それでは導入できる事業所が限られてしまうと、現在、反物をローラーで巻き取る方式の“コンパクト機”を開発中である。伝統産業を最新のITでよみがえらせよう―。 “業界の孝行息子”のチャレンジは、まだ始まったばかりだ。 |