monodzukuri 第1回「ものづくり日本大賞」 HOMEEnglish
受賞者たちの熱きドキュメント
キーワードから探す 地域から探す ムービーを見る まんがで読む
世界の先端をつくるプロフェッショナルたち伝統を受け継ぎ進化するプロフェッショナルたち
新潟県 角度の基準 ポリゴンミラ  ラッピング
新潟県小千谷市
(株)第一測範製作所
大平昭則(51歳)
計測機器部部長 新潟県小千谷市
(株)第一測範製作所
大平昭則(51歳)
計測機器部部長
伝統のラッピング技術を応用して
完成した超精密割出台
同社が89年に発表した超精密割出台は、標準規格(ISOやJIS)に沿った製品づくりに不可欠な角度の基準となる機器である。その構造は、2枚の分厚い鋼鉄製ディスクを、放射状に刻んだ720枚の歯で密着させるというもの。すべての歯が均一にかみ合っているため、ディスクはどの角度でも高剛性と機械的な安定性を保ちながら,驚異的な割り出し精度を保つ。この歯を精密に仕上げるために応用されたのが、同社伝統のラッピング技術。パウダーと呼ばれる微細な砥粒を用いて、金属表面のわずかな凹凸をならすというものだ。専用の加工機と職人の経験から生まれた本製品は、0.5度の分解能を持ち、割り出し精度0.2秒以下を実現。国内外の機関で、角度の上位標準器として使用されている。
この製品には新しいアイデアも、
驚くような機能もない。
ただひたすらに精度を追求していった
受賞者のドキュメントを読む
Company Profile
(株)第一測範製作所
http://www.issoku.jp/
1944年設立。当時の社名は小千谷航空精機。日本に数社しかない精密測定機器の大手専門メーカーのひとつ。国内トップシェアのねじゲージなどの各種ゲージ、空気マイクロメーターなどの計測機器、精密機械部品の開発・製造に取り組む。その超精密加工技術で、規格の厳密な実現を可能にし、JISの改廃にも貢献しているほどだ。
超精密割出台に刻まれた720枚の歯。この歯の仕上げが精度を決める
超精密割出台に刻まれた720枚の歯。
この歯の仕上げが精度を決める
ポリゴンミラーの角度精度測定例。筒状の機器はオートコリメーター
ポリゴンミラーの角度精度測定例。
筒状の機器はオートコリメーター
手作業による金属加工面のラッピング。鏡面仕上げもご覧のとおり
手作業による金属加工面のラッピング。
鏡面仕上げもご覧のとおり
その角度は本当に正確か?信頼できる「角度の基準」をつくれ
 私たちが日常、かなり適当に扱いがちな長さや重さといった尺度。しかし工業製品の世界では、それらは厳密な規格によって管理されている。「角度」もそのひとつだ。
「角度精度が大切なパーツのひとつに、レーザープリンタや複写機などに使われているポリゴンミラーがあります。この部品は正多角柱形のミラーで、すべての面が正確な角度をなしていなければいけません」
 ポリゴンミラーは高速で回転しながら、レーザー光を反射して感光ドラムをスキャンする。各鏡面の角度が狂っていると画像がゆがむため、特に精密に加工される部品だ。この精度を調べるにはミラーを台の上に固定し、鏡面を一面ずつオートコリメーターという測定器で計測すればよい。仮に正八角柱形なら、台を45度ずつ回転させて8つの面を測定すれば、その精度が角度にして何秒なのかがわかる。ここで使われる“台”こそ、割り出した角度精度がほとんどゼロという、超精密割出台なのである。
「一般的な割出台はNC工作機械にも組み込まれていますが、高精度なものでも精度は±10秒から15秒くらい。超精密割出台にはこうした割出台の校正、つまり精度を確認する『角度原器』的役割もある。それには少なくともその10分の1以下の高精度が必要。欧米には以前からあったのですが」
 ところがなぜか、精密機械工業大国である日本製がない。ならば、と大平さんたちが開発に取り組むことになったのである。
緊張と忍耐のラッピングで、720枚の歯を完璧にかみ合わせる
 超精密割出台の構造そのものは非常に単純なものだ。この台は分厚い鋼鉄のディスク2枚からなり、それを上下に重ねた構造になっている。2枚の合わせ面には、直径20pの位置に幅5oにわたって、セレーションと呼ばれる歯が放射状に刻まれている。歯の数は720枚、つまり一歯につき0・5度の角度をなしていて、上下のディスクがどの位置にあっても、隙間なくぴったりとかみ合い、正確な角度を出す。この精密な加工を可能にしたのが、同社の伝統的な「ラッピング技術」―包装ではなく、金属を精密に研磨すること―だった。微細なダイヤモンドやセラミックのパウダーを使って、なでるように磨く。実に繊細な職人の手仕事だ。しかし、歯の幅は1o以下。手作業ではとうてい不可能だった。
「そこで、専用の加工機械をつくることから始めました。その機械でまず720枚の歯を刻む。この段階を『研削』といって砥石の付いた刃で加工するんですが、ここでは加工面に砥石の跡が残ります。その微細な凹凸を、ラッピングでならすわけです」
 とはいえ、加工機はあくまで道具にすぎない。実際にはベテランのラッピング技術者の経験にもとづいて、どのパウダーでどのくらいの時間ラッピングするか、ということから決めていかなければならなかった。
「時間を決めるのは、一度始めたら途中で機械を止めて様子を見ることができないからです。止めるとそこで歯の状態が変わってしまう。加工機が歯を一回りする間に、わずかな振動や温度変化があっただけでも精度が出なくなりますから、管理が大変。ひとつの工程が終わると、均等にラッピングされているかどうか、技術者が歯に残ったパウダーの跡を目視でチェックします。この時大切なのは、細部にとらわれず、全体がきれいな模様になっているかどうかを見ることです。職人は手だけではなく、目でも仕事をするんですよ」
 最後にはもっとも目の細かいパウダーの跡すらなくすため、パウダーなしでセレーション同士をすり合わせる「空ラッピング」が行われた。そして、測定器を使った検査へ。ところが測定器のほうも、もはや分解能ギリギリ。割出台の誤差なのか、測定器の揺らぎなのかという問題すら生じた。こうして3年近くを費やし、360度を0・5度ごとにどの角度に割り出しても、0・2秒という精度を持つ超精密割出台が完成。国内外で「角度の基準」として認められたのである。しかし、大平さんが技術者として誇りたいのは、この製品自体ではない。
「皆さんに知ってほしいのは、ラッピングという素晴らしい職人技であり、伝統を生かしたものづくりなんです。小千谷という雪深い地に生きる人々の粘り強さが、こういう技術をはぐくんだのでしょうね」
ページTOPに戻るページTOPに戻る
その他の受賞メンバー(五十音順)
石原健二、岡敏男、桑原和寿
このWebサイトについて (C)2006 日本機械工業連合会