全米自動車労組( UAW )は2月、テネシー州チャタヌーガのフォルクスワーゲン(VW)工場で実施された労組結成を問う選挙で、反対712票、賛成626票で敗れた。UAWの敗北は、ドイツのフォルクスワーゲンの工場労組によるUAWに対する支援をもってしても避けることができなかった(ドイツのVW労組はチャタヌーガ工場での労組形成を望んでいた。そうすればドイツ型の労使協議会を同工場にも設立することができるからだ。もっとも、労働問題を専門とする一部の米弁護士によれば、VWの米工場の労働者が労働側代表者としてチャタヌーガ工場の労使協議会に参加するためには、労組形成選挙を実施することは必ずしも必要ではない、とのことである)。
VW工場での労組形成の失敗を受け、UAWはすぐに労組形成のターゲットをミシシッピ州カントンにある日産自動車の自動車組み立て工場に移した。日産は昨年、この最新鋭のカントン工場で、自動車やトラック、ミニバンなど30万台を生産している。UAWがカントン工場をターゲットに定めたのは、日産の経営陣が社員を派遣労働者に代える動きを加速しつつあったからだ。このためUAWは、リストラされる恐れのある日産の社員がUAWに保護を求めるのではないかと、やや楽観をしている。
UAWが最近になって南部での労組結成を加速させているのは、6月に66歳で定年退職を迎えるボブ・キング会長の影響が大きい。UAWが加盟者減少という長期的傾向を転換するには、南部の州で新規組合員を開拓するしかないとキング氏は考えている(UAWの組合員数は1960年代末の150万人をピークに減少に転じ、直近では40万人となっている)。
日産のカントン工場では少なくとも5000人の非管理職の社員を雇っており、UAWはそのうち1000人が労組加入資格のない契約社員だとみている。労組が全国労働関係委員会(NLRB)に労組形成を問う選挙の実施を要請するには、対象とする交渉単位の少なくとも30%の有資格労働者が選挙に登録しなくてはならない。日産の多数の有資格労働者を選挙に登録させることは、UAWにとって大きな試練となる。この工場の生産ラインの労働者の平均時給が25ドルなのに対し、ミシシッピ州の一般労働者の時給は大幅に低いからだ。実際、ミシシッピ州の労働者の賃金は全米で2番目に低い。もう一つの試練は、日産がUAWのオルグ担当者に対し、同社の敷地内で従業員に話しかけることを認めていないことだ。このため、UAWのオルグ担当者は日産の労働者と工場の外――通常は工場の正面玄関近くに設置された仮設の事務所――でしか話せない。しかも最近になって、労組のオルグ担当者が工場の入り口で対象企業の従業員に話しかけることを禁じる法律がミシシッピ州議会で成立した。
このため、UAWの日産カントン工場での労組形成の努力は苦戦を強いられている。それでも、UAWが最終的に成功を収める可能性が排除されたわけではない。全米労組の中核に位置する米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)がUAWの労組組織化のための努力に関心を強めつつあるからだ。AFL-CIOには豊富な資金力があり、これを傘下の組合の労組組織化運動に融通することができる。州議会での政治闘争のためにUAWに対して多くのロビイストを送り込むことも可能だ。さらに、日本の日産自動車の労働組合がUAWのミシシッピ工場での労組形成の動きを支援し始めたとされる。おそらくこれはUAWから要請されたのであろう。
米国の労働組合の動きに詳しい複数の人物によれば、日産のカントン工場での労組形成選挙は、6月までに実施される可能性が高いという。UAWが選挙で勝てば、日産はミシシッピ事業の一部またはすべてをメキシコに移すとの見方が大勢を占めている。 |