第46号

2. 米欧 FTA協議
 
 デビッド・キャメロン英首相は5月13日にワシントンで、米国と欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)協議(米・EUの作業レベル政府担当者は7月8日にブリュッセルでFTA協議を開始することで合意)について、米欧の双方に対し、前提条件や例外事項を設けずにFTA協議を実施するよう求めた。

 EU加盟27カ国の立法機関である欧州議会は現在、米国との今後のFTA協議の交渉権限を欧州委員会に与える案について議論しているが、欧州委員会が提案している交渉権限には、FTAの最終合意からAV製品とサービスを除外することが盛り込まれている。また、欧州の労働者の雇用条件の最低保証も含まれる(ドイツは反対)。

 米・EU間のFTA協議が妥結に至れば、既に世界の国内総生産(GDP)の4割を占める2つの経済圏の統合が進むことになるが、観測筋は米・EU間のFTA協議は妥結までに少なくとも丸2年はかかるとみている。遅れが生じるのは、銀行などの資本市場規制の調整など、FTA協議がさらなる経済統合についての議論を呼び込む可能性が高いからだ。

 オバマ政権は、上院財政委員会に対してEUとのFTA交渉に入る意向を正式に通知し、政権と議会との90日間の協議期間が始まっており、6月18日に協議期間が終了すれば、政権は自由に交渉する権限を得られる。欧州委員会は欧州議会に対して交渉権限を求めているため、EUの執行機関である欧州委員会と立法機関である欧州議会との間でも同様の協議が行われている。(情報3

 


(情報3) 米・EU間の FTA協議、7月8日に開始へ

 

 デビッド・キャメロン英首相は5月13日にワシントンで、米国と欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)協議を6月17〜18日に北アイルランドで行われる主要8カ国首脳会議の「直後に」始める可能性があると語った(注:これより前に、米・EUの作業レベル政府担当者は7月8日にブリュッセルでFTA協議を開始することで合意している。キャメロン首相はワシントンでの演説中に双方が合意した正確な日付を思い出せなかったのだろう )。キャメロン氏は米欧の双方に対し、前提条件や例外事項を設けずにFTA協議を実施するよう求めた。「この合意がもたらし得る莫大な利益を実現するには、野心と政治的意思が必要となる――つまり、すべてを交渉のテーブルに載せるということだ」と語った(注:キャメロン氏はEUのAVサービス市場を米プロバイダーに開放することにフランスが反対していることや、州政府調達をEUの製品やサービスに開放することに米政府が慎重姿勢を示していることが念頭にあったのかもしれない。EU加盟27カ国の立法機関である欧州議会は現在、米国との今後のFTA協議の交渉権限を欧州委員会に与える案について議論している。欧州委員会はEUの執行機関である。欧州委員会が提案している交渉権限には、FTAの最終合意からAV製品とサービスを除外することが盛り込まれている。キャメロン首相は5月13日のワシントンでの講演でこの点にそれとなく言及した。キャメロン首相は今年、欧州議会の議長を務めている。欧州委員会がAV製品以外に提案している交渉権限には、欧州の労働者の雇用条件の最低保証も含まれる。ドイツはこれに反対している)。

 米・EU間のFTA協議が妥結に至れば、既に世界の国内総生産(GDP)の4割を占める2つの経済圏の統合が進むことになる。これは例えば、日本や韓国、カナダなど他の国に対して米欧との統合をさらに進める圧力となる可能性がある。「もっとも、利益を過大評価してはならない」、ワシントンに拠点を置く環大西洋ビジネス・カウンシルのティム・ベネット事務局長はこうクギを刺す。「恩恵が現れるまでには数年かかるだろう。これはEUや米国の雇用問題を全て解決する特効薬ではない」。別の観測筋は米・EU間のFTA協議は妥結までに少なくとも丸2年はかかるとみている。遅れが生じるのは、銀行などの資本市場規制の調整など、FTA協議がさらなる経済統合についての議論を呼び込む可能性が高いからだ。EUの銀行や規制当局はいわゆる「ボルカー・ルール」に強硬に反対している。これは2010年のドッド・フランク・ウォール街改革・消費者保護法に盛り込まれている規制だ。2009年の「リーマン・ショック」を受けて実施されたこの米国法では、銀行が自己資金で証券取引を行うことを禁止している。これに対し、欧州の銀行は過去も現在も自己資金で証券に投資している――2009年にドイツ銀行など欧州の主要行が投資で多額の損失を被った後でさえ、これは続いている。

 オバマ政権は3月20日、上院財政委員会に対してEUとのFTA交渉に入る意向を正式に通知した。この通知を受け、政権と議会との90日間の協議期間が始まった。6月18日に協議期間が終了すれば、政権は自由に交渉する権限を得られる。欧州委員会は欧州議会に対して交渉権限を求めているため、EUの執行機関である欧州委員会と立法機関である欧州議会との間でも同様の協議が行われている。オバマ政権は4月24日、TPP協定に向けて日本と交渉する意向を議会に通知した。したがって、大統領の慣習的な「ファストトラック権限」に基づき、オバマ大統領は7月23日に日本との交渉に入ることができるようになる。TPP参加各国は7月15〜25日にマレーシアで追加のTPP協議を実施することで暫定合意している。これが実施されれば、日本は協議の最後の2日間に参加することができる。

 

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